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綴草子〜千夜一夜小噺集〜

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第一話 精霊に魅入られし者

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第一話 精霊に魅入られし者

-あらすじ-
 誰かの人生を垣間見ることができる物語集『綴草子〜千夜一夜物語集〜』。
 ページを開くと誰かの不思議な話が顔を出す。時には、恋の話を。時には、ちょっと感動する小噺を。
 これは、現実か夢か、はたまた幻想か。どこかで、聞いたことがあるかもしれないし、ないかもしれない。
 さぁ、ページをめくってみてください。誰かの人生を覗き見てみましょう。

-総文字数-
約37305字
#創作大賞2

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第二話 ボーダーライン

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第二話 ボーダーライン

#創作大賞2023

 ソファにかけていた。何もしたくない。食欲もない。なんなら、入浴などの清潔行動すらできない日もある。
 出てくるのは、イメージのみ。とある男女の話、猫と女性の話……挙げだすとキリがない。
 仕事に行かねばならぬとわかっていた。準備を整え、靴を履いた。なのに、そこから先が動かない。動けない。冷や汗が出る。時間は刻々と過ぎて、気付けば遅刻確定の時間だった。
 一先ず休みを取った

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第三話 酸性雨

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第三話 酸性雨

#創作大賞2023

 カランと鐘の音と共に扉が開く。

「いらっしゃい」

 渋い声が店内に広がる。

「開いてるかい?」

「あぁ……いらっしゃい。開いてますよ」

 コートにハットを深めに被った男性が、ぬっと入店する。室内では、陽気なジャズが流れている。
 客と思しき男性は、迷うことなく奥のカウンターへと向かう。
 彼はハットを外して、腰を掛けた。

「今日は降りそうですぜ、マスター」

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第四話 前掛け

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第四話 前掛け

#創作大賞2023

 さて、一つ不思議な話をしよう。
 ある一人の女性がいた。彼女は、いつもの道でいつもの自転車に乗り、いつもの時間に家路へと向かっていた。
 職場と家路のちょうど半分のあたりに、祠があった。その祠には、優しい笑顔を浮かべた地蔵が安置されていた。
 真面目な彼女は、毎日そこを通るたびにお参りするようにしていた。彼女にとっての道祖神であった。
 毎朝毎晩欠かさずお参りした。彼女は決

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第五話 月と星

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第五話 月と星

#創作大賞2023

 僕との出会いは、偶然だった。その時の僕たちは、月と太陽のような距離だった。

「すみません!」
「いえっ……」

 僕は、雑踏の中にいた。感覚でいえば、雑踏の中に僕がいるのと同時に、僕の中に雑踏がいた。
 僕の脳は、暑さでどうにかなりそうだった。
 独り、雑踏の中を歩く。暑さで靄がかかったようなアスファルトを、人ごみの隙間から覗いていた。

「きゃっ……」
「あ、すみません

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第六話 レモンティー

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第六話 レモンティー

#創作大賞2023

 ある日のことだった。とある女性が雨宿りをしていた。彼女はびしょ濡れの子犬のように震えていた。
 彼女の雨宿り場所に、一人の青年がやって来た。
 彼女を見たその青年は、足を止めずにはいられなかった。何故なら、あまりにも彼女が震えていたから。

「あの……大丈夫ですか?」

 青年が声をかける。彼女は、びくりと反応をし、彼の方へ視線を向けた。彼女は泣いていた。

「大……丈夫…

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第七話 自由への招待

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第七話 自由への招待

#創作大賞2023

 僕は夢を見た。不思議な夢だった。

 彼女たちの頭には芽が出ていた。聞いた話によると、初潮を迎えた証らしい。
 彼女たちの頭には花が咲いていた。聞いた話によると、初体験を迎えた証らしい。
 彼女たちは、気付いている。その植物の存在に。でも、違和感はないのだと言う。気付いたら生えているらしい。
 僕は、彼女たちを眺めている。まだ何も出ていない者。芽の出た者。花が咲いた者。彼女

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第八話 二人だけの千夜一夜物語

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第八話 二人だけの千夜一夜物語

#創作大賞2023

 彼にとって、冬から春は温かい季節だ。あの子がやってくるから。
 空気が心持ち暖かくなりつつあるこの時期、あの子はやって来る。彼女は、早起きした春風に乗ってやって来る。
 少年は、彼女に会いに森に行く。湖のほとりで彼女と会うのだ。

「久しぶりだね」
「ふふ、今年も会いに来たよ」

 彼女はとても小さい。いつも、そっと木陰で、いつもこの時期を過ごす。

「今日から、またしばら

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第九話 コーヒーの苦味

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第九話 コーヒーの苦味

#創作大賞2023

 友が久々に会いに来る。私は、変わり果てた自分の体型を恨めしそうに眺めていた。
 結婚して、子どもを産んで。気付くと、青春時代の面影は、遥か彼方に消え去っていた。

「こんな姿で引かれないかしら……」

 仕事へ行く夫を見送り、子どもを両親に預け、いざ待ち合わせ場所へ。
 彼女は、変わらずモデルのようなスタイルだった。

「久しぶり! 元気にしてた?」

 彼女は、こんなにも

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十話 優しさの積雪

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十話 優しさの積雪

#創作大賞2023

 雪の降るある夜のことだった。私は、暖炉のそばで読書を満喫していた。

〝こんこん〟

 窓の方から音がした。見ると、リスがこちらを覗き込んでいる。
 僕は、窓をそっと開けて、その子を招き入れた。

「入れていただき、ありがとうございます」

 リスは、丁寧にお辞儀をした。外はかなり寒かったのだろう。その子は震えていた。

「いや、構わないよ。寒かったろう? 暖炉のそばで暖ま

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十一話 これは夢のような現実の話

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十一話 これは夢のような現実の話

#創作大賞2023

 これは、夢のような現実に起きた話だ

 いつものように、一日を終えて、布団に潜り込む。布団の中で、僕は、元彼女となった女性との最後のやりとりを思い出していた。

「貴方は、誰にでも優しい。でもそれは、結果として優しさではないの」

 僕の何がいけなかったのだろう? 僕は自問自答する。答えは出ない。
 優しくする事が優しくないなんて、どうすれば良いんだろう?
 僕は、彼女との

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十二話 遙かなる約束

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十二話 遙かなる約束

#創作大賞2023

 私は、この桜の木の下で約束した。今度こそ、あなたと添い遂げると。

 私は、気怠さを体に纏いながら、体を起こした。

「ふぁーあ……。なんか、不思議な夢を見ていた気がするなぁ……」

 午前七時。私は、洗顔を済ませ、トーストを焼く。そして、ラジオをつけて、コーヒーを淹れる。ラジオからは、珍しく私の好きなバンドの曲が流れていた。
 トーストをかじりながら、ラジオを聴く。口の

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十三話 ターニングポイント

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十三話 ターニングポイント

#創作大賞2023

 ある日。悟は、ぼんやりと世界遺産を眺めながら、歩いていた。
 ふと気づくと、猫がいる。悟は、何の気なしに猫を撫で始めた。

「人懐っこい猫だなー……」

 そうぼやきながら立ち上がると、目の前にニコニコと悟を見る男がいた。
 どうやら海外から旅行に来た様子だが、それにしても、荷物が少ない。

「Are you on a trip?」

 合っているかわからない英語で、おそる

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綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十四話 海辺の不思議

綴草子〜千夜一夜小噺集〜 第十四話 海辺の不思議

#創作大賞2023

 これは、不思議な不思議な話。

「ねぇ、神様って信じる?」

 僕は、君に問いかけた。潮風に靡く彼女の髪が、柳が揺れるようにも思える。

「どうだろうね。でも、奇跡はあると、信じているよ」

 彼女は、にこりと頷く。さらりと髪が揺れる。潮風の匂いが鼻をくすぐる。
 僕と彼女の出会いは、いつだっただろうか? 海辺に行くと、いつの間にか彼女がそばにいた。

「君との出会いって、

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