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作るなら芋から作ろうこんにゃくを

「霜月さんに、お荷物が届いています」「あ、はい。どうもありがとう」
 荷物を引き取った霜月もみじは、嬉しそうに段ボールを両手で抱えると、そのままキッチンに持っていく。
 そして段ボールの蓋を開けると、見慣れない存在が出てきた。「これが、こんにゃく芋。へえ、初めて見るこんなものなんだ」
 もみじは珍しそうに、こんにゃく芋を眺める。見た目はサトイモにもジャガイモにも見えるごつごつとした形。
 だがそれらの芋と違い、頭の部分にとげのような芽が出ている。見た目によってはカボチャっぽくに見えなくもない。

「いいわ今日は、手作りでこんにゃくを作るわよ」
 娘の楓は昼寝している。もみじは、ひとり気合を入れると、さっそくこんにゃく芋を洗う。
「芽は食べれないのよね」洗った芋の芽を包丁でくりぬくと、茹でやすい大きさに切る。
「ほう、茹でてから皮を向いたほうが良いのか」ということで水が入った鍋の中に切ったこんにゃく芋を放り込む。そのまま火をつけでゆであがるのを待った。

「さて、このあとは。うん、何この粉」もみじは同封された白い粉を見る。「貝殻焼成カルシウムか、うん、なるほどこんにゃくを固めるのに使うのね」
 そんなことをしている間に、鍋が沸騰し芋が茹で上がっていた。お湯から取り出した芋の皮をむく。「へえ、スプーンで簡単に向けるわ。調べといてよかった」
 半分程度を冷凍保存し、残りをこんにゃくにする。「ここで出番がこれね」
 もみじは一旦キッチンから離れて戸棚からあるものを取り出した。「さて今日はフードプロセッサーの出番」
 フードプロセッサーをセットすると、先ほどのゆであがったこんにゃく芋を乗せる。「ちょっと測ってみると。えっと150グラムね」その後はぬるま湯を500ccほど入れてフードプロセッサーで攪拌。粉々になった芋をボールに入れる。

「これから一時間か。さてどうしましょうかしら。そうだ、録画したDVDちょうど一時間のドラマみましょう」
 こうしてもみじは待っている間、DVDのを視聴することにした。

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「やっぱり良かった。あの演技は何度見ても感動ね。さてと続き続き」もみじは満足そうな表情でキッチンに戻る。
「えっと先ほどのカルシウムを」もみじは貝殻焼成カルシウムを説明書きに書いてあった量。このときは4グラムを50ccのぬるま湯に入れて透明になるまでかきまぜた。そしてこれを先ほど放置していたこんにゃく芋を攪拌したものを入れる。
「混ぜやすいようによくかき混ぜて」もみじはしっかりと手順通りに慎重に行った。やがてすべて入ったこんにゃく芋をかき混ぜる。当初バラバラだった芋であったが、貝殻焼成カルシウムが凝固剤の役目を果たしているらしく、徐々に糊のように粘着性がでてきた。
「糊のようになったらまた20分放置か。なにしよう」もみじは再びキッチンを離れて、今度はスマホチェック。

 20分程度戻ると不完全ながらも固まりつつあった。これを適当な多きごとに丸めていく。それを再び鍋で沸騰させたお湯を用意しそこに入れていく。「これがあく抜きになるのね。それで30分煮たら完成ね」

 もみじは誰もいないがひとりで完成させたこんにゃくを前に、喜びのあまり口から白い歯を見せる。

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「ただいま」「おかえりなさい!」いつもと変わらない時間に、夫・秋夫が帰ってきた。
「へえ、こんにゃくを芋から作ったの」今日の出来事を嬉しそうに報告するもみじ。「ほんとうだ。こんにゃくだよ。で、これ何の料理になるの」
 秋夫のこの一言。実はもみじにとっては想定外の質問。
「え、あ、しまった。こんにゃくを作るのが目的だったの。だからそのお......」ここでもみじは固まった。
「おい、ちょっと待てよ。こんにゃくだけあって、料理何も作ってないの? これ生で食えってか?」

 秋夫は明らかに不機嫌。
「あ! いやどうしよう。え、豆腐にすればよかった。もし豆腐なら、醤油かけたら冷奴になるけど...... ありゃ。こんにゃくじゃ無理よね」慌てふためき、右手で頭を掻きむしる仕草。さらに前後左右に慌ただしく動くもみじ。
 それを見ている秋夫は、呆れて思わず舌打ち。非常に気まずい空気が流れてしまった。

 ここになにかを察知したのか、娘の楓がふたりの前に来た。これで空気が一変して和やかになる。「あ、楓だ。元気してたか」秋夫は嬉しそうに楓の頭をなでる。
「もういいや。とりあえず。ビール貰おう」秋夫は冷蔵庫を開ける。ビールを漁っていると、秋夫は嬉しそうに目を輝かせていた。
「おい、これあるじゃん」と、上機嫌。彼が取り出したのは味噌であった。

「よし、これで田楽作ろう」
「え!」意外な展開に驚くもみじ。
「で、田楽って串にさすんじゃなかったかしら? たしか駅前にある小料理屋の女将が『食材を串で刺した形を田楽法師に見立いるから田楽よ』って言ってたわよ」
「いいよ。店じゃないんだから気にするな。あと豆腐と大根もあるじゃないか。よし決まりだ」

 秋夫は、自らもエプロン姿になると、引き続き戸惑ったままの。もみじを前にこんにゃくを適当な大きさに裁断。「何やってるの大根を切って茹でよう」
「あ、はい」ようやく我に戻ったもみじも手伝う。
 こうして串には指していないが、田楽風の料理が完成。秋夫、もみじ、そして楓の3人は、その料理を満足に食べたことは言うまでもない。


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シリーズ 日々掌編短編小説 494/1000

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