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ワインを#呑みながら書きました 第786話・3.20

「ちと渋み?いや、いいや」俺はあろうことか仕事の最中なのに、赤ワインのボトルを開けてしまった。赤ワインと言っても、そんな高級なものではない。いわゆるディスカウントストアーにあるものだ。つまり消費税を入れたとしてもワンコインよりも安い価格で買えるような代物を近所から手に入れた。つまり気軽に飲めるぶどう酒、下手をしたらビールよりも安いのだ。

 ただどうしても今は飲みたかった。だってそんな日はあるだろう。一般的には「ムシャクシャ」という状態を比喩して飲むのかもしれない。だがそれ以前「ムシャクシャって何?」ということは横に置くとして...…。

「け、何がアフター567だってんだ」俺はひとりでグラスに注がれた赤ワイン相手に、のどを潤しながらいつしか愚痴をこぼし始めた。こうなるきっかけは先週の話。俺はあるクライアントからアフター567に関する旅の記録を書くように指示されたからなのだ。

「あのさ、2022年になっていよいよ567も終わりそうな気がしない?するよね。ボクちゃんそう思うんだ。だからそういうの一回現地に行って書いてほしいの。例えば、京都って567の前ってインバウンドで大変だったじゃないのかなって」
「はあぁ、」俺はただ適当に話を合わせるしかない。「そこで、今の京都に行ってくれないかなぁ。それも金閣寺にいって欲しいんだよ。インバウンドのころと比べて、今の567時代の金閣寺ってどう違っているのかなんてね」

 ということで俺は言われるまま京都に向かう。言われた通り、さっそく金閣寺に行ってみることにした。
 こうして境内から入場料を払ったのち、金閣が鎮座する庭園に向かう。
「確かに外国人はいないな。でもやたら若い日本人が多いんだけど。そっか、今は卒業旅行っていうやつだな」これは俺が、境内の外から金閣寺の境内を順路通り歩いた結果結論付けたこと。

 今はかつてのように金閣寺に外国人のツアーが異常に殺到するようなことはなかった。とはいえ金閣寺は観光地京都を代表する存在としてのポジションは失っていない。だから日本人観光客の姿は多かった。


「何がアフターコロナだってんだ!」ついに俺はひとりで、レッドのアルコールを飲み干すと、急に顔の周りがぼやけだす。気持ちが大きくなりついつい声に出して語りたくなる。だからなのか?空になりかけたワインボトル相手に愚痴りだした。
「せっかく京都まで行ったのに、何だよ!つまらない。外国人が減っただけで閑古鳥だと。けっ、冷静に考えりゃ金閣寺ほどの有名なところがそうなるわけねえだろう。ヒッ、こんなことのために、なんで俺京都にいるんだ!」

 俺はそのまま京都で一泊した。片手にはワインのボトルが置いてある。今日は一応金閣寺に行ったが、大して何かがあるってわけではない。行ってみてほかの観光客は金閣を背景に撮影をした。だが俺はそういうのに興味はない。せいぜい「金閣」と称された鹿苑寺の中でも壁に金箔が貼ってある建物の屋根についている鳳凰を撮影してみることしか興味を持たなかった。

 俺は金閣寺で撮影した鳳凰の静止画を眺めている。「鳳凰はやっぱ金色してんな。さぞかしキレイだなへっへ」俺は何かよくわからないが、ずいぶん酔っていたようだ。だから気が付いたら眠っていた。

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 翌日、いつもより早く寝ただろうか?二日酔いもなくすっきりした朝を迎える。「さて金閣寺も行ったしもう帰ろう」と俺は思った。ところがここでふと疑問に思うことが起きる。「まてよ、金閣寺は金箔で壁が覆われていたな。とすれば銀閣寺も同じようなものだろうか」

 後で考えれば恥ずかしい話。教科書にも出ている銀閣寺、金閣寺のように箔など貼っていない。でもその時の俺はその当たり前に気づいていなかったのだ。ひょっとしたらまだアルコールが抜けずに酔っていたのかも。
「せっかくの京都、このまま帰ったらもったいなってもんだ。どうせなら銀閣寺って銀箔貼ってないか確かめてみよう」と勝手な屁理屈を自分自身に言い聞かせた俺は、そのまま銀閣寺に向かった。

 そして銀閣寺に入った俺は到着して建物を見る。そしてそのまま顔の表情が固まった。

「やっぱ貼ってねえや」俺はため息をつく。そのとき俺は、素材が本物の銀じゃなくともアルミホイルのようなものが貼ってないかかすかに期待した。だが結果は銀どころか金属など壁に貼ってなく、木の黒ずんだボディを見せる銀閣寺の姿。
 俺はとりあえず撮影をした。撮影はしたがそれ以降は淡々と銀閣寺の敷地内を散歩する。「いまから帰るのか何となく嫌だな」と思ったが、俺はそんなことも言ってられずしぶしぶ帰るために京都駅に向かった。「新幹線乗ったら何か呑もう」と思って。


こちらの企画に飲みながら参加してみました。

追記
この作品をワインを呑みながら書いたのは事実です。


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シリーズ 日々掌編短編小説 786/1000

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