熊谷

人文学系 大学二年生

熊谷

人文学系 大学二年生

最近の記事

冠の話

 昨日、9月9日日本時間午前2時半、エリザベスⅡ世の訃報が世界中を流れた。奇しくも日本は重陽の節句を迎えていた。  不謹慎な話ではあるが、御歳90過ぎ(享年96)昨年には夫のエディンバラ公を亡くした女王陛下が、この先10年20年とご存命であらせられるとは思っていなかった。ゆえに驚きはなかった。しかしながら幼い頃から王族や皇族に親しんでいた僕は、やはり心にぽっかりと穴が空いたような心地になる。何度もBBCの速報を巻き戻してはさめざめと泣く、そんな夜明け前だった。  陽がのぼ

    • ゴジラと戦後

       ゴジラは戦後日本がその国力を最もぶつけた存在と言える。昭和29年以降、政治力、経済力、軍事力、あらゆる日本の“力”がゴジラと向き合い続けた。ゴジラとは何か。少しだけ考えてみようと思う。  ゴジラは、日本の東宝が1954年に公開した特撮怪獣映画『ゴジラ』に始まる一連のシリーズ作品および、それらの作品に登場する架空の怪獣の名称である。これら一連のシリーズ作品のことを「ゴジラ映画」と呼ぶこともある。(Wikipediaより引用)  水爆実験によって凶暴化して東京を襲うゴジラは

      • 自分の胸に手を当てて考えろ

         大学にいると就活について嫌でも考えさせられることがある。大学から就活の案内が届いたり、先に卒業する友人たちが内定をもらっていたりすると、「いや〜〜〜俺も考えなきゃなあ」の気持ちになる。あまり真面目に考えたことはないが。そういう関係でたまに聞くワードとして、「自分らしさ」「個性を活かせる仕事」というのがある。仕事に自分らしさも活かす個性もクソもないだろうと思う。金を貰うわけだから相手に合わせなければならない。なぜ自分に合わせるのか。意味がわからない。ぶつくさ文句を言いながら少

        • 神殺しの近代

          神の亡骸はどこへ「神は死んだ」(独: Gott ist tot)という言葉は、近代の始まりを告げるニーチェの言葉としてあまりにも有名である。皆には一度この言葉をよく考えてみてほしい。我々は人が死ねばその死体を何かの手段で処理をする。そうでなければ死体は腐敗し、都市であれば公衆衛生上問題が生じる。現代日本で最も多い死体の処理方法は火葬である。昔は火葬の臭いがとても耐えられるものではなく、社会問題化したこともあったらしい。もし都市の外、自然の世界で死体が放置された場合は微生物が分

        冠の話

          愛国は高く掲げよ、祖国は踏みにじれ

           まだ残暑の季節だったと思う。自民党の総裁選の真っ只中で、秋葉原で街頭演説があった。当時浪人の身でありながら、僕は友人と二人で見に行くことにした。御茶ノ水の予備校の授業の後、秋葉原に歩いて向かった。  秋葉原駅前は人ごみで溢れていた。若者の政治に対する無関心が取り沙汰される昨今ではあるが、体感的には若者のほうが多かったと思う。老若男女、まさに大衆が自民党の街宣車に注目していた。そしてそこに集う多くの人たちが、日の丸を手にしていた。きっと熱心な支持者なのだろう。  僕と友人

          愛国は高く掲げよ、祖国は踏みにじれ

          失われた10年

           小学校受験は僕の20年の人生で最も無駄な時間とお金の浪費だったと思う。具体的にいくらかかったのかは知らないが、二つの塾に通っても学業成績が伸びることはなかった。僕が勉強できないことは幼稚園の頃から周囲の大人は分かっていた。だが途方もない(であろう)お金をかけて彼らは僕を私立の小学校に入れた。理由は二つあった。 「両親が共働きだから公立だと不良になる」 「熊谷家の長男だから私立じゃないといけない」 いや意味がわからん。こう言ったのは父と父方の祖母である。そもそも親族の僕より上

          失われた10年

          ちゃんとした洋食店のすゝめ

           魅惑の洋食 洋食は西洋の食事ではない。明治日本があらゆる場面で近代化を進めていく中で確立された、「ヨーロッパ“風”の日本食」である。洋食はながく日本人に愛され、今となってはそのメニューは専門店が出来上がるほど人気だ。  だが昨今はそのメニューの専門店ばかりがSNSで脚光を浴びている。それ自体は悪いことだとは思わないが、やはり僕はお店で「ハンバーグ美味しそうだなあ、あ、オムライスもあるな、うーん、このお店はどれが上手なんだろう」と悩みたいのだ。決まったメニューではなく、洋食店

          ちゃんとした洋食店のすゝめ

          食い道楽のすゝめ 1

           このシリーズについて 渋谷にコンコンブルというビストロがあった。宮益坂から少し入った角にある老舗である。ランチに行くと、シルバーのトレーに正統派のフランス料理とカトラリーを一式載せて運んできてくれる。1,000円から1,500円くらいの間でスズキや鴨、ポタージュをお腹いっぱい味わえる。しかも値段に比してすごく美味しい。決して高級店ではないが、他所行きの格好をして行きたくなる、そんな魔法のようなお店だった。  僕はこのお店が大好きだった。友人や彼女と何度も来たし、女友達との

          食い道楽のすゝめ 1

          祖父自慢

           僕は高知にある母方の実家で生まれたが、育ったのは主に東京の父方の実家である。父方の実家は昔から続く病院だ。病院と言っても大学病院のような大きな病院ではない、町の診療所である。今は叔母が継いでいるが、その前は脳神経外科の祖父が院長だった。今日はその祖父の話をしようと思う。  祖父は勉強家で、実家の大きな本棚は歴史と医学の本で埋まっていた。幼い頃はその本がなんなのかもわからなかったが、今ではそれが知性の山であることがよく分かる。祖父はまだ幼い僕に色々な話をしてくれた。よく彼は

          祖父自慢

           諦念

           こんにちは、熊谷です。まとめようかなと思います。まとまり切る気がしませんが、そしたらまあまた気が向いたら追加で書いたりもします。 大衆に触れて 2019年4月19日に池袋で交通事故が起きた。87歳の男性が運転する自動車が母娘2人を含む9人を轢いたあの有名な事故だ。高齢者の自動車運転による事故が社会問題として議論され始めた時期だったこともあり、この事故はメディアによってよく報道された。   結局、加害者の男性は逮捕されなかった。それは当然で、逮捕は要件(逃亡の恐れ、証拠隠

           諦念

          天のお告げがあったので

          今朝起きたら天のお告げがあった。 「男の娘風俗に行きなさい。」 僕は男の娘風俗に行くことにした。 ※性描写を含む内容です。苦手な方はご遠慮ください。 〜予約〜風俗というのはどんな業種でも予約をしなければならない。人生は選択の連続である。ひとまず近所のカフェでミルクティーを飲みながら手元のスマホでお店を選ぶ。 初めて行くからにはやはり大手が良い。 そう思って一番規模が大きそうなお店を選んだ。お店を選ぶと次は指名する女の子(?)を選ぶ。 初めて行くからにはやはり一番

          天のお告げがあったので

          宇宙全体よりも広くて深いもの

           「宇宙全体よりも広くて深いもの、それは一人の人間の心」という歌詞を聞いたことがあるだろうか。超人機メタルダーのオープニング曲、『君の青春は輝いているか』の一節である。マイクは佐々木功が握っている、言わずと知れた名曲だ。  僕は人間関係において、「人を理解する」という行動を半ば諦めている。それは何か特定の事件があったとかそういう類のものではなく、僕が生きていくうちに「人様のことはよくわからない」と思ったからだ。  僕は高知県で生まれた。高知のみならず、東京にいた親族も僕の

          宇宙全体よりも広くて深いもの

          命を救うことを嗤うな

           よく覚えている。去年の、まだしつこい残暑がアスファルトを熱している時節だった。その日は休日で、僕は家から二駅隣の町にレポートの参考文献を買いに行った。目当ての本を手に入れて、帰路につく。行きと同じ地下鉄のホームで、電車が来るのを待っていた。 ドサァッ  突然左側で、何かが倒れる音がホームに響いた。振り向くと白髪の老婆が倒れている。僕はすかさず鞄を下ろし、老婆の側に膝を下ろして叫んだ。 「お婆さん!聞こえますか!?」  返事がない。叫びながら肩を叩いても反応が無く、お

          命を救うことを嗤うな

          Nationalism

          先日僕はこんなツイートをした。  これについて、「素朴なナショナリズム」についての話をもう少し詳しく聞きたいと質問箱に投げてくださった方がいらっしゃったので質問箱ではなくこちらで詳しく述べようと思う。まあただの新右翼の思想の焼き直しですが。  そもそもこのツイートは、ごちゃごちゃになった論点をかなり乱暴に一言で表してしまっている。もう少し丁寧に僕の思うところを描写したい。まあ居酒屋のノリで聞いてくださいな。  このツイートに関わってくる僕の問題意識は2つ。1つ目は日本には

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          シルクロードで感動した話

           noteを始めたばかりで、色々な種類のnoteを作って試行錯誤をしようと思う。今日はお勉強とかそういう系じゃなくて、まあこんなことがあったよっいう話。  去年の夏、私は大阪から船で上海へそして鉄道を使って敦煌まで行った。船内や車内で仲良くしてくれた中国人の話もたくさん書きたいが、今日は敦煌の話。それも、莫高窟や月牙泉の話ではなく、ただただ私が勝手に想像して勝手に泣いた話。  敦煌は中華の西の果にあるオアシス都市。鳥取砂丘などとは比較にならないほど広い、日本じゃ絶対に見ら

          シルクロードで感動した話

          国家神道について(前編)

           江戸時代が幕を閉じ、近代という時代が日本史の舞台に登場した。西洋の技術や学問が日本列島に本格的に流入し、社会は大きく変わろうとしていた。当時は近代化に関する問題が山積しており、国家神道もそのうちの一つだった。今夜は、国家神道が作り上げられた経緯について考えようと思う。  明治新政府の宗教政策は1868年3月13日の太政官布告に始まる。 此度 王政復古神武創業ノ始二被為基、諸事御一新、祭政一致之御制度二御回復被遊候二付テハ、先ハ第一、神祇官御再興造立ノ上、追々諸祭奠モ可被

          国家神道について(前編)