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デザイン発注者が知っておくべきこと(2/5回)

デザイン発注者が知っておくべきことと題して全5回に分けて書きます。本記事は第2回。第1回はこちら

デザイナーのビジネスモデル

そもそもデザイナーのビジネスモデルも把握しておく必要があります。依頼の際にかかる金額は各デザイナー、デザイン会社ごとにまちまちですが、ビジネスモデル自体は以下の5種類に大別できます。

1. 案件単位の受託制作
2. 期間単位の受託制作
3. 案件単位の顧問やコンサルティング、研修
4. 期間単位の顧問やコンサルティング、研修
5. デザイン技術を応用した別事業

基本は人件費という固定費を抱えての労働集約型ビジネスですので、デザイン会社としての売価はコンサルティング会社に近い考え方になります。

近年ではデザイン技術自体が事業の競争力になることも多いため、デザイナーやデザイン会社自身(あるいは他者との協業)で労働集約型デザインビジネス以外の事業を立ち上げることも多くなってきています。

デザイン料金の支払い基準

デザイナーに支払うフィーは前述のビジネスモデルごとに存在します。おそらくもっとも多いのは、制作物などのアウトプットを納品した際に検収をし、請求書発行、翌月に現金振込で支払う方法でしょう。広告業界の一部や大型案件では手形で支払うところもまだあると聞きます(手形は基本嫌がられます)。
デザイン会社は固定費ビジネスなので、支払いが延びると損失になるケースが多いため、プロジェクトの遅延などでのリスクも鑑み、全額を納品後に払うのではなく、着手金として一定の額の支払いを求めるデザイン会社も多く見られます。初取引の場合は半金を着手金として支払うなどはよくあるケースです。

次に多いのがプロジェクト期間に毎月定額を支払うケースです。デザイナーやデザイン会社には小規模のところも多いため、リスク回避のためにもこの方法をメインにするところも増えてきています。またUIやサービス開発など「終わりが絶対にない」デザイン領域では完成での納品というものがそもそもないため、この支払い方法が増えてきています。顧問契約なども同様です。またこの支払い方法を採用すると、事後一括よりもリスクが減るためディスカウントをしてくれるデザイン会社も多いです。明確に表明はせずとも、実質リスク分の上乗せを省く形でしょう。デザイン会社は小規模なところも多いため、キャッシュフローに関するリスクについてはかなり敏感だったりします。

弁護士などと同様、タイムチャージでの計算もあるようですが、なぜかあまり多くはないようです。

そして、デザイナーやデザイン会社自体がクライアントの事業に深くコミットする場合、デザイナー側も共同事業社のような立ち位置でやる場合はレベニューシェア、ロイヤリティといった支払い方法を採用する場合もあります。クライアントの売上の何パーセントかを成果報酬として支払う形式です。事業立ち上げ時にデザイナーに支払うフィーが充分に用意できないクライアントやデザイナーのプロモーション力を期待されてのプロジェクトなどで採用される場合が多いようです。雑貨のデザインやパッケージのデザインなどの領域で聞くことが多い形式です。ロイヤリティでよく聞く数字は商品の売値の5%周辺です(これが適正料率かどうかは意見が分かれるところです)。利益の先送り、一種の不確定金額という意味では似た形式でストックオプションで支払うかたちも稀に見られます。
とはいえロイヤリティやレベニューシェアはデザイナー側にとって収益のリスクや不確実性が非常に高いため、一定の額を支払いつつ何割かを成果報酬型とするなどの複合形式が実際は多いようです。

ここで重要なポイントが、この支払い方法の選択を間違えたことでトラブルになるケースが非常に多いということです。これに関しては後述します。

デザイン料金の基準

デザイナーの料金水準は非常に幅があります
これはデザイナーとしての熟練度、デザイン会社組織としての運営費用の差やその会社に対する需給バランスなどが複合的に影響するからです。
そして多くの場合、案件ごとの事情を鑑みて各デザイナー、デザイン会社は調整して見積もりを出しているようです。
例えば、手がけたデザイナーとして名前が出ないものは宣伝効果が望めないためその分高くする、ネームバリューがあるクライアントでどうしても受注したいから提示された予算に合わせて安くする、契約などの事務手続きの時間コストがかかるクライアントはその分費用を上乗せするなどはよく耳にする調整です。
そのような調整は多少あれど、各社自社基準は持っていて、全体でも大まかな相場はあります。以下はいくつかの例です(あとこれは日本の事例なので、アメリカなど海外のデザインオフィスはもっと高めです)。

グラフィックデザインの事務所に小さなリーフレットのデザインを制作期間一ヶ月とかで依頼した場合は数十万円前半から数百万円前半程度。

Webデザインの会社にページ遷移なしのキャンペーンっぽいLPのデザインとコーディングを制作期間一ヶ月で依頼した場合は数十万円後半から数百万円前半程度。ページ単価という見積もり形式はまだあるようですが、ウェブデザインの潮流が変わってきたのもあり、減ってきてはいるようです。

プロダクトデザインの会社に工業製品のデザインを制作期間3ヶ月とかで依頼した場合は数百万円後半から数千万円前半程度。表面上のかたちだけをデザインするのか内部の構造や製法までデザインするデザイナーなのかで価格も大きく開きがあります。

デザイナーにコンサルタントやアドバイザーとして毎月一回、2時間程度のミーティングに参加を依頼した場合は3ヶ月〜半年単位で月額数十万円前半から後半程度。インハウスのデザイナーのアウトプットに対するレビュアーとしてだったり、デザイン部門の教育やマネジメント目的、デザイン組織立上げのコンサルティングなどの案件はこのパターンであることが多いようです。

ビジネスデザイナー3名に3ヶ月集中して事業検討を依頼した場合は数千万円台前半から1億円程度。

これらはあくまでも一例でしかなく、しかも見て頂いた通りかなりの幅があります。各デザイン会社のポリシーやネームバリューなどによっても大きく上下します。ある程度定型化して薄利多売で体力勝負をしているデザイン会社もあれば、そうじゃない会社もあるのはほかの産業と同様ですね。

デザイナーの相場観がわからないというのは昔からある意見で、それに対応するように各デザイナーの領域ごとに存在するデザイナー協会などが相場感を参考情報として出しています。
発注側がそういったところの相場を参照することは多いようですが、概ね実態より安く公表されてしまっているように感じます。

デザイナーは情報収集や研鑽が必要な技能職であり、デザイン作業は時間がかかる作業が多いので、非デザイナーから見ると手を動かしたアウトプットに対して高価に感じる場合が多いです。デザインは頭脳労働でもあり、手を動かす前の思考する時間が仕事の大きな割合と価値を占めていて、その分の費用がかかるわけですが、それらの実態が一般的に理解されていないことから費用感のギャップが生じているように見えます。デザインの発注に慣れている企業はデザイナービジネスは頭脳労働者のリソースを売る労働集約型ビジネスなので、打ち合わせも費用がかかる商品だという意識を持っています。

また先述したようにコンサルティングなどの長期間支払いが安定する案件ではない単発案件は高額になる傾向があります。これはデザイン会社に限らず、リスクや受注数の上下振れ幅がある受注案件ビジネスの企業としては一般的です。

見積りを出した際に、他社より高額な見積もりが返ってくるデザイン会社が暴利を取っているとも限りません。プロジェクト各所で起こるリスクや対応の予測が出来ているからこそ高額に見えている場合もあります。結果的には、途中で「やっぱり追加コスト」交渉が度々入る会社よりも効率も良く低コストで済んだという例もあるからです。

発注側は、これらの大まかな相場感のレンジがあることを踏まえた上で、契約条件や依頼したいこと、スケジュール、大まかな予算感などを情報として揃えた後に見積もりや相談の依頼を出すことで、発注側、デザイナー側双方が最小のコストで見積もりや交渉が可能になることでしょう。

次回はデザイナーとの契約について

(リアクションやコメント等頂いたら追記したり修正していくと思います)

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