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長編

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複数編の怪談です。一編の長さは中編と同等か若干長いです。
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#創作大賞2023

校舎内の禁足地 十一

校舎内の禁足地 十一

 翌日、長住さんから頂いた住所を元に、数本の電車を乗り継いで最寄りの駅へと到着した。長住さんは既に改札で私の事を待っており、白一色の衣装に身を包んでいた。軽い挨拶を交わして今日一日の流れを聞くと、早速件の場所へと出発した。話に聞いていた通り街並みは至って普通であり、まさかここで何人もの子供が失踪し、凄惨な死を遂げた人が複数いるとは考えられない程だった。ただ、以前よりは高層マンションも増え、この街か

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校舎内の禁足地 十

校舎内の禁足地 十

 水滴が私の頬を滑り落ち、口元を通って床に落ちました。指紋の無い指でなぞられた様な感触に、何故か私は強い怒りを感じました。起こった感情が私からなのか流れ込んできたのか分かりませんが、とにかく強い怒りを感じたのです。しかし恐怖を上回ったのはほんの一瞬で、すぐさま背後に立つ霊の事で頭が一杯になりました。これまでの人生で出会わなかった目に見えない存在が、具体的な形を成してそこにいる。半透明だとか足が無い

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校舎内の禁足地 九

校舎内の禁足地 九

怪談を登る足音は夕闇に吸い込まれて、呼吸や心臓の音すら出しちゃいけないんじゃないかと思うくらい静かでした。夜の闇も暗いと思いますが、この校舎の光景を一度でも見れば、赤い夕陽が作り出す影の方がより暗く不気味さを感じられると思います。だって、すぐそこには光があるはずなのに、影の部分はその光が届いていない様に真っ黒だったんですから。そんな中を懐中電灯も無しに進むのはあまりに恐ろしく、私も田添君も半泣きで

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校舎内の禁足地 八

校舎内の禁足地 八

1台の軽自動車が植木に突っ込んでいました。ほんの一瞬の出来事に私はただただ地面にへたりこんで、エンジン部分から煙が立ち上がるのを見つめるだけでした。もしも黒田さんが気付かなかったら。手を引くのが少しでも遅れていたら。今私はここで話してはいないでしょう……3人も周囲の人も雷に撃たれたように立ち尽くす中、初めに動いたのは軽自動車に乗っていた運転手でした。しかも運転席のドアが開き転がり落ちるように車から

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校舎内の禁足地 七

校舎内の禁足地 七

人柱。
それはかつての因習でしかなく、現代では合理性も化学的根拠も一切無いけれど、アステカ文明やたった50年程前の日本においても行われていた儀式。どれだけ尽力しても叶わず、神か悪霊か、そのどれでもない何かに祈りと命を捧げていていました。勝利、五穀豊穣、安全祈願だけに留まらず時には契約として。
そんな代物に自分の家族が関わっているとしたらどれ程の衝撃でしょうか。
あくまでも可能性の話だよと黒田さんは

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校舎内の禁足地 六

校舎内の禁足地 六

私の頭の中には疑問符しかありませんでした。関わっているどころか、最早渦中のど真ん中、大元だとは思いもよらなかったからです。ありきたりな名字ですから、他の長住の可能性もあるかと必死になって地図上に長住の文字が無いか探しました。でもどれだけくまなく探しても他に長住の文字はありません。
「なんで長住さん家はこんなとこに建ってるのかな。あんまり良い理由は無さそうだけど……」
田添君が言う様に中洲には長住の

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校舎内の禁足地 五

校舎内の禁足地 五

週末にまた公園で会う約束をし、そして約束通り昼過ぎに黒田さんはやってきました。三人で藤棚の下のベンチに腰掛けて、自販機で買ったコーラを飲みます。本来なら子供である二人を巻き込まずに解決したいところですが、校舎に入ったり他の子から噂を集めるのは黒田さんには難しいでしょう。週末に集まって情報を共有し、開かずの廊下が何なのか突き止める事。現状出来るのはそれくらいだとこの時は思われました。長住さんの祖父に

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校舎内の禁足地 四

校舎内の禁足地 四

菊池君と久保君とは席が隣で、私が真ん中でした。久保君が運ばれて菊池君が急な休みになってから両側が空席で、気が気じゃありませんでした。名前を呼ばれてはいませんが私も声を聞いていましたし、翌日普通に授業を進めようとする先生達が何かを隠していることは明白でした。深淵を覗けば…ではありませんが、私達子供が関わらない様にする必要があったのでしょう。じゃあ何でそもそも3階ごと、あるいは建て直したりをしなかった

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校舎内の禁足地 三

校舎内の禁足地 三

彼の名前は久保君と言います。くぼではなくひさよしと読みます。久保君はクラスの中でも比較的大人しめで、きちんと会話こそするものの休み時間には外で遊ばずに読書に耽る様なタイプでした。彼と話したのは噂が流れ始めてからで、それも「僕も聞いたよ、僕の名前を呼んでたんだ」とたったそれだけでした。その彼が、本当に呼ばれてしまったんでしょうね。真似をした訳ではありませんが、私もパクパクと口を開けて驚き呆けて立ち尽

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校舎内の禁足地 二

校舎内の禁足地 二

誰かのイタズラだと思うのが普通だと思います。でもついさっきまで電気は点いていなかったし、点ける為にはバリケードを越える必要がありました。子供が自分の少ないお小遣いをはたいてわざわざこんなイタズラをするとは思えませんでしたし、何より、こう、その蛍光灯の下の空間がとても古めかしく感じたんです。夕焼けに染まった教室のノスタルジックさではなくて錆びれた商店街の様な、とにかく退廃した空気でした。

菊池君は

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校舎内の禁足地 一

校舎内の禁足地 一

あらすじ
とある街のとある学校に、生徒達の間で語られる怪談があった。
それは校舎の三階にある開かずの廊下から声がする、何故か赤い上靴が落ちている……その声を聞き、見た生徒は開かずの廊下の先にある教室に連れ込まれて帰って来ない、というものだった。
怪談を蒐集する私の元にその被害者とも言える人物が訪れ、自身が体験した怪談を語ってくれるのだが……

この話をするのは久し振りの事なので、少し歪曲してる部分

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