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長編

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複数編の怪談です。一編の長さは中編と同等か若干長いです。
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#心霊

異形の匣庭 第二部⑫-2【怨故知新】

異形の匣庭 第二部⑫-2【怨故知新】

 一軒のアパートの前に立ち、終始何かを気にして辺りを見回している。
 目の前をヘッドライトが横切ったのを確認して道路を渡り、1階中央の部屋に入っていく。
 物が散乱した室内のどこからか饐えた匂いが漂っており、これだけの暑さの中クーラーも扇風機も無い故の蒸し暑さが臭さを増進させている。
 廊下でそれらを纏いつつ一番奥へと向かい、ポケットから鍵を取り出して部屋の鍵を開ける。
 年季の入った学習机の他に

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異形の匣庭 第二部⑫-1【怨故知新】

異形の匣庭 第二部⑫-1【怨故知新】

 車窓から見える景色が色濃い自然から暗闇、そしてまた自然に変わっていく。入れ替わる度に民家の数と新しい様式の物も連れ立って増え、途中の降車駅では縦に生え伸びたビルやマンションが軒を連ねていた。そのビル群の合間合間に中途半端に伸びた鉄骨と、赤と白に彩られた大型のクレーンが見え隠れするのを見て、弾けた泡をものともせず日本の近代化の波はまだまだ続くのだろうなと思わせた。
「はぁ……」
「…………」
 右

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異形の匣庭 第二部⑪-1【囲われた火種】

異形の匣庭 第二部⑪-1【囲われた火種】

 自分の叫び声で目が覚める事があるんだな、と冷静になってからやっとまともに息を吸うことが出来た。ぽすりと真っ白なシーツに身を沈めると面前に橙色の天井が広がっていて、夕陽が主張するのに丁度良いキャンパスになっていた。古ぼけた蛍光灯と剥き出しの自然が支配する風景から一変し、無機質で温かみのある風景に包まれている。その事実がどれだけ僕を安心させ、どれだけの恐怖の中にいたのかを測る物差しになったかは、震え

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異形の匣庭 第二部⑩-2【別のモノ共】

異形の匣庭 第二部⑩-2【別のモノ共】

前回までのあらすじ
母の面影を追って島根に来た継(つなぎ)。そこで祖母のセツに出会い、母がただのアルピニストではなく別の次元の存在を扱う仕事をしていたと知る。
セツとセツの友人である源五郎の口論から逃げ出した先で、継は異形達に襲われていた……

「誰か! ねえ!! セツさん!!! ゲンさん!! な、鳴海!!!」
 どれだけ叫んで叩いても開きもしない扉を前に、鉄パイプを使って四苦八苦していた。人力で

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校舎内の禁足地 八

校舎内の禁足地 八

1台の軽自動車が植木に突っ込んでいました。ほんの一瞬の出来事に私はただただ地面にへたりこんで、エンジン部分から煙が立ち上がるのを見つめるだけでした。もしも黒田さんが気付かなかったら。手を引くのが少しでも遅れていたら。今私はここで話してはいないでしょう……3人も周囲の人も雷に撃たれたように立ち尽くす中、初めに動いたのは軽自動車に乗っていた運転手でした。しかも運転席のドアが開き転がり落ちるように車から

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校舎内の禁足地 七

校舎内の禁足地 七

人柱。
それはかつての因習でしかなく、現代では合理性も化学的根拠も一切無いけれど、アステカ文明やたった50年程前の日本においても行われていた儀式。どれだけ尽力しても叶わず、神か悪霊か、そのどれでもない何かに祈りと命を捧げていていました。勝利、五穀豊穣、安全祈願だけに留まらず時には契約として。
そんな代物に自分の家族が関わっているとしたらどれ程の衝撃でしょうか。
あくまでも可能性の話だよと黒田さんは

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校舎内の禁足地 六

校舎内の禁足地 六

私の頭の中には疑問符しかありませんでした。関わっているどころか、最早渦中のど真ん中、大元だとは思いもよらなかったからです。ありきたりな名字ですから、他の長住の可能性もあるかと必死になって地図上に長住の文字が無いか探しました。でもどれだけくまなく探しても他に長住の文字はありません。
「なんで長住さん家はこんなとこに建ってるのかな。あんまり良い理由は無さそうだけど……」
田添君が言う様に中洲には長住の

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校舎内の禁足地 五

校舎内の禁足地 五

週末にまた公園で会う約束をし、そして約束通り昼過ぎに黒田さんはやってきました。三人で藤棚の下のベンチに腰掛けて、自販機で買ったコーラを飲みます。本来なら子供である二人を巻き込まずに解決したいところですが、校舎に入ったり他の子から噂を集めるのは黒田さんには難しいでしょう。週末に集まって情報を共有し、開かずの廊下が何なのか突き止める事。現状出来るのはそれくらいだとこの時は思われました。長住さんの祖父に

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校舎内の禁足地 四

校舎内の禁足地 四

菊池君と久保君とは席が隣で、私が真ん中でした。久保君が運ばれて菊池君が急な休みになってから両側が空席で、気が気じゃありませんでした。名前を呼ばれてはいませんが私も声を聞いていましたし、翌日普通に授業を進めようとする先生達が何かを隠していることは明白でした。深淵を覗けば…ではありませんが、私達子供が関わらない様にする必要があったのでしょう。じゃあ何でそもそも3階ごと、あるいは建て直したりをしなかった

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校舎内の禁足地 三

校舎内の禁足地 三

彼の名前は久保君と言います。くぼではなくひさよしと読みます。久保君はクラスの中でも比較的大人しめで、きちんと会話こそするものの休み時間には外で遊ばずに読書に耽る様なタイプでした。彼と話したのは噂が流れ始めてからで、それも「僕も聞いたよ、僕の名前を呼んでたんだ」とたったそれだけでした。その彼が、本当に呼ばれてしまったんでしょうね。真似をした訳ではありませんが、私もパクパクと口を開けて驚き呆けて立ち尽

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校舎内の禁足地 二

校舎内の禁足地 二

誰かのイタズラだと思うのが普通だと思います。でもついさっきまで電気は点いていなかったし、点ける為にはバリケードを越える必要がありました。子供が自分の少ないお小遣いをはたいてわざわざこんなイタズラをするとは思えませんでしたし、何より、こう、その蛍光灯の下の空間がとても古めかしく感じたんです。夕焼けに染まった教室のノスタルジックさではなくて錆びれた商店街の様な、とにかく退廃した空気でした。

菊池君は

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