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エッセイを投稿します。 https://twitter.com/krhikc6

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最近の記事

ガールインザミラーvol.1

 ジリリリリ、と勢い良く目覚まし時計が鳴り響いた。私は深い眠りの奥底から強引に引っ張り上げられ、その勢いのまま目覚まし時計のてっぺんをべちっと叩き、黙らせた。  よし、任務完了——————。 「おはよう由良。今日から学校だろう?朝ご飯早く食べないと遅刻するよ」 ドア奥からひょこっと顔を出し景が言う。そうだった。昨日で夏休みは終わったんだった。  窓枠から見える空は綺麗な青一色であり、一日を始めるにはうってつけの天気だ。換気目的で開けていた窓からは心地良い風がカーテンを揺らして

    •  五限の講義の|最中、ふと目に止まった空を見つめる。あの薄い赤と青のグラデーションは、まさしく秋の空という感じだ。台風が過ぎ去った後はなにやら肌寒いし、街の雰囲気も慎ましくどこか侘しげである。そして気付けば、夏の背中が遥か遠くにあった。それはもう、とても追いつけないほどに。  あの美しくも主張しない空模様は、何かあった筈のものが無くなっていたような、何かを忘れてしまっているような、そんな不安を駆り立ててくる。どこか胸の奥が軋んで、それすらも言葉にできない歯痒さが私を毒の様に苛

      • 気付き

         来世は無くて、幽霊は居ない。天国も実は無くて、地獄も同じく無いらしい  それは大きな気付きであり、閃きだった。  しかしそれからだろうか。この世界に奥行きを感じなくなったのは。

        • 陳腐ながらも

          「実は浮気されたんだ」 狭いベランダの手すりにもたれ、彼女はそう零した。  紺色の空は仄かに赤みを帯び、一等星も直に隠れる頃合いである。彼女の持つぬるくなった缶は結露し、愚痴と共に滴っていた。私は開け放った窓際に腰掛け、見上げる様な形で話に耳を傾けた。  愚痴に始まり旅行先やプレゼントのこと、告白のこと、何故振られたのかなど、色んなことを話した。未来も過去も忘れてただ、この瞬間だけを早朝の空気を肴に語り明かした。次第に彼女の声は震え、いつしか彼女は言葉と共に涙を零していた。

        ガールインザミラーvol.1

          相反する私

           うだつの上がらない日々に、どことなく安堵する。しかしそんな私に、心底腹を立てる私もいる。  この上なく起伏のない生活に時間を浪費して、死ぬ間際に「良い人生だった」なんて、私は果たして言うだろうか。言えるはずがないよな。  もっと知れるはずだったのに。もっと遠くへいけるはずだったのに。勝手な尺度で、勝手な解釈で、勝手な言い訳で自らの道を狭めてどうする。そんなの、井の中の蛙じゃないか。  何かに熱中して没頭して、気づいたら死んでるくらいの人生が憧れる在り方であり、私の理想なのだ

          相反する私

          一期一会な夜

           日中の暑さが残骸となって未だ残る深夜。薄雲に紛れるは鋭利な三日月。群生する星々。それらの写し鏡のような、街の灯り。それらを眺める私の歩みは、いつだって緩慢としている。  小さい頃、気に入ったものを手放さないような性格だった。それは無くなってしまうのが怖かったから。それは目を離したら消えてしまうと思っていたから。今思えば、その性格は今でもどうやら変わらないようで。今あの月が、星が、雲が、朝の訪れと共に無くなるのがどこか惜しいのだ。当然、また夜が来ることは知っている。だが、それ

          一期一会な夜

          死の価値観

           死んだら真っ暗だと人は言うが、何故死んだのに、真っ暗と認識しているだろうか。それは死んでいないのではないか。そもそも何故、暗闇や真っ黒にこだわるのか?白ではいけないのか?赤や緑や青ではダメなのか?何もない空虚を負のイメージで暗闇だと喩えたのは、死よりも先の死を恐れている人ではないか。  やむを得ない話ではある。未だに世界中で憶測が飛び交って、死という永遠のテーマに人は囚われ続けている。それは当然、誰も死を知ることができないからだ。  正直な話、私はとても死の先が知りたい。死

          死の価値観

          行く末

           疑問という概念は、人類の手に残された僅かな進化の種子だ。それに解決と新たなる疑問を託けて知識へと昇華させるそれは、まさしく人を人たらしめる要因といえる。  逆を言えば、無我無欲とは人としての本能の逆走だ。神も仏もそうあれと説くが、それはつまるところ進化の停滞だ。求めず、顧みないことは純粋で美徳とされているが、では欲することは悪であるといえるか。  人は古来よりあらゆる事で効率化を図ってきた。それは何事にも疲弊が伴うからであり、楽をしたいからでもあり、何より面倒だったからであ

          行く末

          不甲斐なさに泣く

           苦しい、苦しい、苦しい——  ただひたすらにそんな感情が渦巻いており、はらわたが煮えくりかえるとはまさにこのことだ。ただただムシャクシャする。ひたすらにイライラする。温厚と自負する私でも、この不甲斐なさに目を瞑ることはできない。そんな行き場のない怒りと、一介のやるせなさが私の足首を掴んで、ずっと離してはくれないのだ。  いや、それもそのはずだ。何故なら自分が招いた結果だ。自分で選んで、起こした悲劇だ。後悔なんて、そんなの卑怯だ。足りなさを嘆いて、不甲斐なさに喘いで、それで

          不甲斐なさに泣く

          理解不能

          皆様、私は疑問、ではありませんが不思議に思うことがあるのです。体を動かすことってとても不思議なことだとは思いませんか?…………いえ、原理は習ったので理解しています。そのつもりです。分かってはいますし、それを判明させるまでに研究した人類はとても偉大だと思います。しかしです。しかしそれでもなお、私は不思議に思うのです。例えば、指を曲げてみます。これ、ほら。見てください。指が曲がったんです。口に出して手に命令した訳ではありません。頭で「指を曲げる」と考えた訳ではありません。ただ確か

          理解不能

          一人暮らし

           一人暮らしに憧れる事は誰しもあるだろう。しかしいざ始めてみれば、そう上手くはいかない事が多いらしい。続けようと思ってた自炊は続かない、皿も溜めるだけ溜めて洗わない、掃除がめんどくさい、洗濯がだるい——など、やる事なす事全ての責任の所在が自分にあるため、思い描いていた理想の生活は最初だけ、ということが多いそうな。  私も当然その一人————と、そうはいかない。実は私はとても丁寧な生活を送ることができている。正直な話、上述の事柄は私にとって障害とはならない。溜め込まなければ特段

          一人暮らし

          傷痕

           ふいに思い出して、叫びたくなるほど嫌だと思った言葉や事柄。何十、何百と思い出して、時には夢にまで見て。そういう過去こそ傷痕として残って、忘れようと努めてもとうの昔に癒着して、離れる事はない。  しかし、その傷痕は毒にも薬にもなり得る代物だ。過ちを顧みて反省すれば、次は少しばかりは良いものになるかもしれない。その過ち故に塞ぎ込み、遂には体を蝕んでゆっくり腐り落ちていくのかもしれない。  だからこそ、その過去に囚われる事は決して悪いことではない筈だ。傷痕として残ったのは、きっと

          傷痕

          雨と一人暮らし

           先走って訪れた梅雨の兆し。一面を覆う暗雲に途切れ目は無く、今日一日のポジティブな希望はおよそ見出すことはできない。微弱な風に舞う粒の細かい雨は、まさしく「湿っぽい」という言葉の体現者である。  閉め切ったレースカーテンを透過する曇り色の光は、薄暗い部屋の寂しさを助長させている。アスファルトや屋根を打ち付ける雨音はより一層、その孤独を際立たせた。  雨は嫌いではない。いや、なんなら好きだ。何故ならこの雨音や薄暗さ、どことなく物憂げな街の雰囲気に風情を感じ取れるからだ。まあ簡潔

          雨と一人暮らし

          ふと気づくと

           春の陽気な日差しとは裏腹に、冬の余韻の様な、残り香の様な少し冷たい空気が肌を包む。裏路地の端に佇むもみじは新緑を纏い、決して紅葉となることだけが魅力ではないと、そう言わんばかりの見事な萌黄色である。  そんな春めく世界に、思わず顔は綻び——    ——————と、いつもなんとなく文を考えながら大学に向かっています。

          ふと気づくと

          変な空

          今日の空と月が、なんだか不気味だ。      なんの変哲もない春日の夕暮れ。子供が塗ったように空は一色であり、そこにこれまた真っ黄色の月が貼り付けられたように浮かんでいる。なんというか、拙い人工物の様だ。いや、空と月なので自然ではあるのだが、何故か幼稚さが拭い切れない。  そう見えてしまう原因は、恐らく月と空の境界が明確だからだ。そもそも月は多少なりとも発光しており、空との境界が月光により曖昧となる。しかし、今回の月はどうだ。あまりにもくっきりと輪郭は見えるではないか。  

          変な空

          悔恨

           私は負けず嫌いだ。それはとてもとても負けず嫌いだ。  私は何事も要領良くこなす方だった。今までの人生においても、振り返ってみればそのような場面は多々見受けられる。ただ、それでも出来ないことがあるにはあった。そういう出来ないことに限って、本当の本当に出来ない。特に、歌を歌うことに関しては。  私は小さい頃から歌うことがとても好きだった。将来は歌を歌って生きていきたいと思っていたし、今でもなんとなくそう思うことがある。  中学は自転車で通学するレベルの距離があったが、帰り道に大

          悔恨