五限の講義の|最中、ふと目に止まった空を見つめる。あの薄い赤と青のグラデーションは、まさしく秋の空という感じだ。台風が過ぎ去った後はなにやら肌寒いし、街の雰囲気も慎ましくどこか侘しげである。そして気付けば、夏の背中が遥か遠くにあった。それはもう、とても追いつけないほどに。
 あの美しくも主張しない空模様は、何かあった筈のものが無くなっていたような、何かを忘れてしまっているような、そんな不安を駆り立ててくる。どこか胸の奥が軋んで、それすらも言葉にできない歯痒さが私を毒の様に苛む。だが、振り返っている猶予はもう残されていない。それ以上に、何かを始めなくてはいけないと私の頭に警鐘が響くのだ。今この瞬間にも夏は遠ざかり、秋が近づく。そして既に秋すらも遠くへ行ってしまう様な気がして、私を置き去りに世界が回っている様な気がして。
 講義終わりの閑散としたキャンパスでは、吹く風ですら秋を纏っていた。そして幾らかばかり色褪せた木々の葉は遂に、既に見えなくなった夏と、言葉にならない感情を明確な物としたのだ。

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