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一期一会な夜

 日中の暑さが残骸となって未だ残る深夜。薄雲に紛れるは鋭利な三日月。群生する星々。それらの写し鏡のような、街の灯り。それらを眺める私の歩みは、いつだって緩慢としている。
 小さい頃、気に入ったものを手放さないような性格だった。それは無くなってしまうのが怖かったから。それは目を離したら消えてしまうと思っていたから。今思えば、その性格は今でもどうやら変わらないようで。今あの月が、星が、雲が、朝の訪れと共に無くなるのがどこか惜しいのだ。当然、また夜が来ることは知っている。だが、それはまた別の価値の夜だ。今の、この夜の価値は、この夜限りで途絶えるのだ。それが儚くて、切ない。しかし何より、ただ愛おしい。それだけだ。
 どれだけ歩調を緩やかにしたとて、例え足を止めたとて、あと数時間でこの夜は失くなってしまう。だから、ゆっくりと味わうように歩こう。噛むように、舐める様に目に焼き付けよう。またの機会を、心待ちにして。

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