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【いきなりの長編はハードルが高い…】初めて小説を書くあなたに勧めたい短編の書き方(2014年6月号特集)


超初心者は3枚から

 これから小説を書こうという方、とりわけ初心者に近い方の場合、いきなり大長編を書こうとしても、そう簡単にはいきません。だから、短編小説で練習しておきます。

 枚数は、超初心者であれば400字詰換算3枚がいいでしょう。もっと短くてもいいですが、短すぎるとかえって難しいところがありますから、とりあえず3枚にし、その中でほんのワンシーンを書くようにします。
 ほんのワンシーンですから、大きい話は書けません。3枚で大きい話を書こうとしたら筋の要約のようになってしまいます。しかし、そうかといって、場面をストップモーションにして描写ばかりしていても話が進みません。

 要するに、3枚でまとめるには、設定や話の前提はどの程度で済ませるか、展開の早さはどうするか、描写はどの程度厚くするかを考える。逆に言えば、どの程度の話なら3枚で収まるかを考える。
 この枚数と作品の大きさを見極めるというのが、まず初心者がクリアしなければならない課題になります。

決めた枚数を守ること

 5枚でもいけるという方は5枚からチャレンジしてかまいませんし、10枚でもいけるという方は10枚でもかまいません。
 ただ、無理に枚数を増やさず、楽に書ける枚数で挑戦してください。ここで重要なのは、完結させること。

 作品は完結させて初めて、「序盤が長くて重く、後半が尻つぼみ」とか、「最初に張っておいた伏線が回収されていない」、「読後の後味が今一つ」といったことが分かります。ですから、今の実力で書ききれる枚数にし、何十作、何百作と習作を重ねたほうがいいです。

 もう一つ、重要なのは、決めた枚数を守るということ。
 10枚で書こうと思ったら10枚で書く。
 10枚というサイズの中にきっちり納める。
 ある人が体験したことを書こうとして10枚で収まらないなら、体験したあることの中からさらに断片を選んで切り取ってこないといけません。
 そのような制約があると面倒ではありますが、制約があるから作者は工夫し、その結果、技術も上達するのです。

短編で模写とデッサンを

 絵画の練習法に模写とデッサンがありますが、小説にもあります。
 小説で言う模写は文字通りの全文書き取りで、これは作者がやった行為を追体験する練習法です。長編の最初の10ページぐらいを書き写すのでもいいですが、作品全体の構成とか仕掛けを学びたいのであれば、掌編の模写がいいでしょう。

 デッサンというのは、模写ではなく素描です。このデッサンが狂っているという状態は、以下のようなものです。

  1. 用紙に収まりきれていない。

  2. バランスが悪い、ゆがんでいる。

  3. ポイントがずれている。

 1は「桃太郎」で言えば、鬼ヶ島に行く途中で枚数が尽きかけ、結果、鬼ヶ島での戦いを説明で端折り、リアルに描写することなく、あっというまに戦いは終了、そしていきなり村に帰還してしまうような展開です。絵と用紙のサイズが合ってないのですね。

 2は辻褄が合っていなかったり、話が脇道に逸れてしまったり、あるいは、枚数をかけすぎて間延びしてしまったり、逆に簡単に書きすぎて情景が克明にイメージできなかったりです。

 3はテーマがずれている、ピンボケという状態ですね。
 長編でこうなってしまったら見つけにくいですし、直しも大変です。だから、短編で何度も練習し、きっちりデッサンできるようにしておきましょう。

基本の構成法

 長編、短編を問わず、有名な構成法として、起承転結と序破急があります。起承転結は漢詩の構成法を応用したものです(図1)。

 もう一つは序破急です(図2)。こちらは能から来た構成法です。
 考え方はほとんど同じですが、短編小説でも、ある程度の長さのもの(80枚~100枚程度)は、設定や話の前提となることを説明する紙幅のある起承転結が書きやすく、掌編というような長さの場合は序破急が書きやすいようです。もちろん、どちらで書いてもOKです。

 起承転結も序破急も小説の基本構成というよりは、誰かに何かを説明するときの基本です。
 つまり、「いつ、どこで、誰が」というアウトラインをまず説明し、そのあとで、「何が、どうして、どうなったか」を書く。これは、これ以上分かりやすい書き方はないという構成法ですので、まずは感覚的にでも、この物語の自然な流れというものを把握しておきましょう。

「問い」と「答え」

起承転結や序破急とは別に、時間をどう扱うかによって分類した構成法もあります(図3)。

 これらも基本は起承転結や序破急で構成されています。あるいは、起承転結や序破急をベースに、それらを崩していったものと考えてもいいです。
 もちろん、崩すのが目的ではなく、おもしろく構成するためにはどうするかという観点で崩したものですが、起承転結や序破急で基本の土台ができていますから、多少崩しても話が破綻することはありません。

 もっと言うと、起承転結や序破急はごく自然な流れですから、考えなくても自然にそうなってしまうというところはあります。その意味では、掌編では特に、起承転結や序破急は考えずに書いても大丈夫な部分はあります。ただし、序盤で発した「問い」に答えないと話は終われません。

 小説に限らず文章は問いを内包しています。たとえば、「鬼のために村人が苦しんでいました」と書けば、それはひとつの問題提起であり、その答えを書かないうちは話は終われません。
 逆に言えば、問いに対する答えが書いてあれば、出来事自体は終わっていなくても話を終わりにすることができます。
 唐突に終わってもちゃんと話が落ちている作品は、そういう作品です。

特集「単弁で学ぶ小説講座」
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※本記事は「公募ガイド2014年6月号」の記事を再掲載したものです。

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