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【書きあげてからが本当のスタートライン】より良い作品に仕上げるために意識したいこと(2020年9月号特集)


※本記事は2020年9月号掲載に掲載したはやみねかおる先生のインタビュー記事を再掲載したものです。

なにがなんでも書きたいという熱い気持ちが大事

――小説執筆の初心者が、書く前に準備しておくべきことはありますか。

 大前提となるのは、たくさん本を読むこと。そうすると自分の中に文章のストックやパターンができて書きやすいんです。また、楽しみながら読むほうがいいですね。

 そうしなければ続かないし、たくさん読めない。面白いところを見つけたら、なぜ面白いか、自分ならどう展開するかを考える。なんとなく読まず、本質を抜き出して深く考えることが大事です。

――先生のお宅には何万冊も蔵書があるとか……。

 家族に悪いので、それ用の家を建てました。死ぬまでに読む数を想定し、5万8000冊まで保管できるようになっています(笑)。

 才能の有無にかかわらず、これだけ読めば誰でも書けますよ。これをふまえた上で言うなら、必要な準備が4つあります。1つ目は「心構え」です。どうして書こうと思ったかをつねに問いかけて、何が何でも書きたい! という気持ちを大事にする。2つ目は、「集中して書ける状況や環境を作る」ことです。
 3つ目は「締め切りを設ける」。これがないと書けません。

――初心者にとっての締め切りは、やはり文学賞がいいでしょうか。

 僕は大学生の頃から公募ガイドを見ながらいろんな賞に応募していました。児童文学新人賞の募集要項が載った公募ガイドは今も持っていますよ(笑)。最後の4つ目は「パソコンとノート」です。

 応募原稿は手書きより絶対パソコンがお勧め。審査する側が読みやすいからです。それと、初心者は気負わず、思いついたことをたくさん打って、あとでたくさん削るといい。好きな作家の一文を打ってみるのも勉強になります。

最初は原稿10枚から挑戦してみる

――事前準備が整ったら、次にどのように書き進めたらいい?

 僕が子ども向けに書いた『めんどくさがりなきみのための文章教室』の中では、まずは10枚から挑戦することを勧めています。小説初心者に大人も子どももないので、大人もまずは10枚からのスタートがいい。それ以上はハードルが高いです。書きたい気持ちを大事にしながら、難しく考えずに、まずは書き始めてみる。先日、中学2年生の女の子が書いた作品を読んだのですが、書きたい思いが前面にすごく出ていた。何の変哲もない普通の文章で、ストーリーもできていなかったけど、不思議と伝わるものがあるんです。

――主人公を立てる上での注意点はありますか。

 主人公1人を中心にしっかり書いたほうがいいですね。主人公の名前は目立つものにして、その他登場人物もわかりやすく、自分が覚えやすいものにするのがいい。10枚の中では、主人公を含め登場人物を2人にしてみる。書くのに慣れてきたら、人もエピソードもだんだん増やしていけばいい。長編でもサブキャラクターは5人以内がいいと思います。多すぎると読者も混乱しますしね。

――人物から物語を動かすのが苦手な人はどうしたらいいでしょう。

 動かすにはその人物の性格をしっかり作っておかないといけない。その上で、どういうことをするか考える。また、思いつかないなら自分を主人公にするといい。自分ならどうするか、自分なら無理だけどこうなったらできるかも……と膨らませる。書く前に、名前、年齢、性格、容姿、家族構成、趣味などを考え、ノートに書いておきます。人物が動かなくなったら、またノートに戻り、動くまで練りします。違う意見や異なる価値観を持った人物を登場させると作品も面白くなります。

――それ以外に動かす方法はありますか。

 ストーリーから考えるのもありです。たとえば大地震が起きて、川に向かって崖ごと家が崩れて、中に閉じ込められた、といった状況を先に考える。そこで、どういう人物をここに入れたらいいか。
 サバイバル能力が高いやつとか、ふだんは勉強はできないけれど、そういうときには知恵を出せるやつとか、キャラクターを配置していくんです。登場人物、ジャンル、その物語の舞台、人称を決めたら、テンプレートを使って構成を立てていく。

起承転結のテンプレートで書きあげる

――構成のテンプレートというのはどういうものでしょう?

 物語の枠組みとなる、起承転結のことを指しています。本の巻末にも付けましたが、「起」で主人公と物語の舞台の状況説明をし、「承」で問題を起こし、主人公の性格や特技を考えながら動かしていく。「転」で解決に向かい、「結」で問題が解決し、主人公がどう変わり、これからどうなるかを書く。
 この通りにやれば、絶対小説は書けます。ただし、その内容が面白いかは別です。ここからいかによりよい作品に仕上げていくかが大切で、ここがスタートライン。1回目で完成品になることはありません。

――「起」を面白く始めるコツはありますか。

 僕のように子ども向けの場合、冒頭の原稿用紙半分までにインパクトのある面白いシーンを書きます。そうしないと子どもは読まない。すると説明があとまわしになりますので、ある程度読んでくれたところで、「ごめん、自己紹介してなかったね」という感じで読者の注意を引きつけるような説明を入れたりする。
 10枚なら最初の2、3行が勝負です。舞台設定の説明はあとでもいいから、まずは読者を引き込むことが重要です。

――「承」を飽きさせずに、最後まで引っ張るのが難しいです。

 僕は「起」で読者を引きつけたら、以降、原稿用紙1枚に1回くらいは、笑えるようなシーンを入れるようにします。飽きさせないようにページをめくってもらい、最後まで読んでもらうことを心がけますね。

――「転」のクライマックスは最初から決めているのですか。

 クライマックスはあとで考えます。最近は、どんでん返しは書いている途中で思いつくことが多いです。最初編集者さんにこういう話でいきますと話していたのに、書いていくうちにこういうほうが喜んでくれるんじゃないかと思いつき、結果編集者さんもびっくりする。誰かを驚かせたいという気持ちが大きい。だから、必死で考えますね。

――「結」の場合は最初から決めて、そこに向かって書き進めるのですか。

 ストーリーを書き進めていく中で、自然に主人公はこうなるというのが出てくる。だから、結末はあまり意識していません。出てこない場合は、不自然な展開になっているからではないでしょうか。

自分の見方を変え、読者の気持ちで考えながら直す

――書き終えたあと、大切なことはなんですか?

 まずは読み返すことですね。文学賞の応募原稿を読む機会がありますが、誤字脱字が多く、読み直していない作品がけっこうある。身近な人に読んでもらうと、独りよがりな文章にも気づきます。何回も読み返して、人に読んでもらえるような作品にする。

――10枚が書ければ、いずれ長編も書けるようになるでしょうか。

 僕は短編も長編も実はそんなに変わらないと思っていて、エピソードと人物が増えていくのが長編。
 まずは10枚をちゃんと書けるようになれば長い話も書ける。その上で、次にどう面白くしていくか。
 面白さには、日ごろの生活の仕方が出てくる。僕は、毎日山の中を走っていて、その最中に昨日とは違う自然の変化を見つけたら頭の中でその様子を描写します。あとでそれをブログに書く。これを続けていると物の見方が広がってくる。毎日、200字の日記を書くのもいいです。文章を書くという姿勢で物事を見ると力がつきます。

デビュー30周年を迎えて

とにかくあっという間で、いつの間にかすごい数のキャラクターを生み出していました(笑)。僕の中で印象深いのは、夢水清志郎と怪盗クイーン。どちらも先に夢の中に出てきて、それが書籍となって実在化した。実は65歳で引退を考えていて、最近始まった『令夢の世界はスリップする 赤い夢へようこそ』シリーズでは、今までいろんな作品に散りばめた謎の回答を出すつもりです。全部解決して終わらないと子どもたちに悪い気がして(笑)。初めて読む方にもわかるようになっているので、ぜひ楽しく読んでいただきたいです。

はやみねかおる
1964年、三重県生まれ。小学校教師を務めながら1989年『怪盗道化師(ピエロ)』で講談社児童文学新人賞に佳作入選しデビュー。『名探偵夢水清志郎事件ノート』『怪盗クイーン』『都会のトム&ソーヤ』など、すべてシリーズ化され、小中学生を中心としたファンを多数もつ。

※本記事は「公募ガイド2020年9月号」の記事を再掲載したものです。

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