【プロになるためのコミュニティは人それぞれ】組織に入ることは上達の近道になるのか?(2014年7月号特集)
社会人の教養講座(朝日カルチャーセンターにお聞きしました)
社会人のための教養講座とは
カルチャースクールは社会人のための民間の教養講座で、1980年以降、一般に定着しました。
規模の大きいものは、産経学園、朝日カルチャーセンター、NHK文化センター、読売文化センターユニオンなど新聞社や放送局が文化事業として運営するものが多く、全国各地の多くの地方新聞、地方局でも事業展開されています。
また、デパートなど小売業や鉄道会社が運営する教室もあります。内容はお稽古事のほか、教養、外国語、美術、音楽などさまざまで、3ヶ月、半年という短い単位で学べます。
今回は、新宿にある朝日カルチャーセンターを訪ね、講座部の磯野昭子さんと前田摂子さんにお話をお伺いしました。朝日カルチャーセンターは、1974年(昭和49年)に開講。それまでお稽古事の教室はありましたが、教養的な講座を打ちだしたのは朝日カルチャーセンターが最初だったそうです。当時はまだ生涯学習という言葉は定着していませんでしたが、新聞社として、行政がやりきれていないことをやっていこうという気概で開講したとのことです。
ここでは文芸講座の中の小説講座に限定してまとめていきますが、各講座の定員はおおむね30名ぐらいで、全6回という講座が多いようです。
受講生の年齢はさまざまですが、黒田夏子さんが75歳で芥川賞を受賞した影響か、昼のクラスでは50代、60代といった世代の受講も多いとのことです。
受講生からはプロの作家も
講義の内容は講師によって違いますが、締切を決めて課題を出させ、合評または先生が講評する形式が多いそうです。
課題は必ずしも全員が出すわけではありませんが、提出した人は講評されることで勉強し、提出しなかった人は授業を聞くことで勉強します。また、初心者のクラスでは、小説の書き方からレクチャーしてくれます。
「自分で書いているだけでは上達する感覚をつかめていけないということで、先生の目があり、同じ厳しい目を持った友だちがいる、カルチャーセンターのような開かれたところに来るのかなと思います」
また、講師をお願いする方は、
「厳しい目は持っているが、実になるアドバイスをしていただける講師です。だめだと突き返すような人は受講生の要望に応えられないので、親身に作品に向き合ってもらえる講師の方にお願いしています」
受講生からは、時代小説家の植松三十里がデビュー。陣崎草子さんが「草の上で愛を」で講談社児童文学新人賞に佳作入選したほか、日経小説大賞、やまなし文学賞、『このミステリーがすごい』大賞(優秀賞)では受賞者を、すばる文学賞や朝日新人賞、小説現代長編新人賞では最終候補に残った受講生がいます。
講座については、朝日カルチャーセンターのホームページを参照ください。
古くて新しい作家修業の場:同人誌と投稿サイト
戦前の同人誌はレベルが違う
現在のように出版・流通が発展した世の中では、商業誌と同人誌を分けることもできますが、明治時代は新聞社はあっても出版社は少なく、雑誌そのものもほとんどありませんから、多くの作家が発表の場を求めて自ら積極的に同人誌を作り、また同人誌に参加しました。
昭和になると円本ブームで出版社が台頭し、雑誌も多く創刊されますが、同人誌や半同人誌はまだまだ作家の活躍の舞台でした。
たとえば、太宰治は昭和8年、木山捷平らと同人誌「海豹」を創刊し、中央線沿線の書店に置いてもらうべく自ら営業したという記録もあります。
また、新鷹会の「大衆文芸」などは、カテゴリーとしては同人誌でも、掲載料を払えばどんな作品でも載るような仲間内だけの同人誌とは少し違います。
戦前は出版点数が少ない分、同人誌は玉石混交であっても相対的にレベルが高く、それゆえ芥川賞も直木賞も戦前は同人誌に掲載されたものも対象にしていましたし、文芸編集者も全国の同人誌を人材発掘の場としてマークしていたという事情はあります。
商業誌だと委縮してしまう
現在の同人誌はどうでしょうか。このあたりの事情について、「三田文學」編集長・若松英輔さんにお聞きしました。
同人誌は全国に500誌ほどあり、季刊や年2回刊、年刊が多いそうです。体裁はさまざまで、商業誌以上にしっかりした体裁のものもあれば、同人二人で始め、印刷したページを自分で綴じた手作りの同人誌もあるそうです。
もちろん、なかには一定の力量の持ち主もいて、そうした方には三田文學誌上でも書いてもらうべく声がけするそうですが、なかなかうまくいかないとか。
「同人誌にはある一定のトーンがあり、同人誌から出たときに、書き続けられる人がいません。特定の親しい人に向かって書いているときは自信があるのに、未知の人に向かって書くとなると委縮し、書けなくなってしまう。淡水では生きられるのに海水では生きられないというようなところがあり、同人誌と商業誌のその中間のような雑誌が必要と思います」(「三田文學」若松英輔さん)
仲間内だけで楽しむ雑誌も多く、そうした環境で書いている人は、いざ批判の嵐にさらされるとなると、途端に気後れしてしまうというのはあります。
あくまでも趣味で書くというのならそれもいいですが、作家修業の場としては、掲載作品のレベルが高く、研鑚できる同人誌でないと不十分かもしれません。また、むやみやたらに批判するのではなく相手を伸ばすような助言をする主宰者がいる同人誌のほうがいいでしょう。
若い人は小説投稿サイトで
二次創作系を除く現在の文芸同人誌を担っているのは、50代、60代という年齢層の人たちだそうですが、一方、10代、20代の作家志望者は、インターネット上の小説投稿サイトに自作の小説をアップしています。こちらは同人誌ほどお金がかかりませんし、印刷もないのですぐに発表できて手軽です。
小説投稿サイトもアマチュアの発表の場であり、その意味では同人誌と似ていますが、デビューのチャンスという意味では小説投稿サイトのほうが高いでしょう。特に「E・エブリスタ」や「小説家になろう」といった大きなサイトでは、大手出版社と連携して投稿や持ち込みをやっており、一つの人材発掘の場となっています。
特集「作家修業の場を持つ」
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※本記事は「公募ガイド2014年7月号」の記事を再掲載したものです。
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