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ありそうなこと

朝起きて、トイレに行って玄関を見たらドアの鍵をしていなかった。
あれ、いつもはかけているはずなのに、そう思った。
でも鍵をかけていなくたって問題はないはず。そんな物騒な家ではないと思っていたから。キッチンでコーヒーを淹れてスマホでニュースを見る。椅子に座って珈琲を飲んで煙草を吸う。
部屋に戻って椅子人座ってテレビを見ていたりすると、音がする。
きゅーきゅー、と音が聞こえる。
窓の外からの音に何か紛れ込んでいるのかなと思って聞き流す。
それでもその音は続いてくる。
きゅーきゅーは同じ音量で、鳴り続いていて、それはどうやら窓の外からではないということになんとなく思い至る。さっきの、ドアの鍵をかけ忘れて寝ていたことが頭の中でもしかしたらと結びつく。

立ち上がって、耳を澄ませて部屋の中をゆっくり歩き回る。
立ち上がるとしばらく聞こえない。気のせいか、警戒しているのか。
歩き回るのをやめて部屋の真ん中で立ち止まる。

きゅーきゅー、また聞こえた。
今度は近い。なんとなく左の方から聞こえる。
左の方は本棚しかないはずだけれど、近づくとまた聞こえてきた。
本が鳴くはずはないと思ってしばらく本棚全体を眺めていると、その本棚の中の一番下の棚に靴箱を入れてその中に大切なものをしまっていることに思い至った。
もしかしたらと思って、その本棚の、一番下のその靴箱を引き出す。

箱を開ける。そうするとその中にハムスターが二匹とその子供が数匹ひしめいていた。入れたはずのない木屑の隅で、子供がひしめいていて、蓋を開けた私を警戒するように母親と父親が見つめている。きゅーきゅーと子供が鳴いている。

恐ろしいというか、信じられないというか、得体の知れない戸惑いの感情が私を包んだ。どうしよう、どうなっているんだ。カギが空いていたと言っても、どんどん思考を巡らせつつ私は気を失った。

目が覚めると私は布団の中で、目の前には枕があった。

夢だった。安心した。本棚を見る。
本棚の一番下に目を移すとその靴箱はあって、しばらく耳を澄ませてもなんにも音は聞こえてこない。
安心して、私はまた眠った。

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