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兄の憤怒 海幸山幸 神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り。百六四

兄の釣り針を失くして

こんにちは。今日も夕暮れ時、「ことの葉綴り。」のひと時です。
お話は、おなじみの、海幸彦・山幸彦の物語です。
ぜひ、子ども時代をなつかしく思い出してみてくださいね。

天孫の邇邇芸命さまを父に、
桜の花の女神の木花佐久夜毘賣さまを母にもつ、
海幸彦こと火照命(ほでりのみこと)と、
山幸彦こと火遠理命(ほをりのみこと)別名天津日子穂穂手見命(あまつひこほほでみのみこと)。

山幸彦のたっての願いで、
お互いの道具を取り換えて、
海幸彦は、山へ獲物を狩りに。
山幸彦は、海へと釣りにでかけました。

大喜びで海にきた山幸彦でしたが、
慣れない釣りに、まったくお魚は連れませんでした。
一日、釣り糸を海に垂れていても、ダメでした。
夕暮れが迫ったときです。
あろうことか、大きな魚を獲ろうとして、逆に釣り竿を
魚に持っていかれてしまったのです。

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ああああ~どうしよう~~~。

大切な兄の釣り針を失くしてしまうなんて……

困った~困った~。

山幸彦は、自分のしてしまった“失敗”の大きさに
ショックを受けていました。
海に消えたとあっては、取り返すことなどかないません。

もう、自分の手にはおえません。

どうしていいかわかりません。

ただ、ただ、茫然自失となり、涙が溢れだしていました。

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兄の憤怒


お屋敷に戻ると、兄の海幸彦は、さっそくこう言葉をかけてきました。

山幸彦よ、今日は一日、山を駆け巡ってきたけれど、坂も多いし大変なものだね~。獲物を弓矢で狙おうとするけれど、逃げ足も速いし、まったく命中しなかったよ。
お前は、どうだったかい? 魚が見えないから、きっと一匹も取れなかったんだろうね。
やっぱり自分の道具と場所でないと、うまくいかないものだね。
さあ、お前の念願だった、取り換えっこを一日したんだから、
もうそれぞれに道具を元通りに返そう。

さあ、私の釣り道具を渡しておくれ。

兄の言葉に、山幸彦は、真っ青になりました。
でも、黙っているわけにもいきません。
嘘をついたり、ごまかすことも、
素直で正直者の山幸彦にはできないことでした。
ただ、ただうろたえながら、

お兄さん、ごめんなさい……。

ふりしぼるような声で、兄の海幸彦の前で
手をついて、あやまりました。

海幸彦は、その姿を見て、何かあったことに気づきました。

いったいどうしたんだ?
早く釣り針を返しておくれ。


山幸彦の背中が震えています。
懸命に正直に状況をつたえなければいけないと、
嗚咽しながら話しました。

お兄さん、ごめんなさい……。
僕も、魚を一匹も釣ることができませんでした。
実は、魚に釣り針を獲られて、海に失くしてしまったんです……。
本当に、ごめんなさい。

なんだって?!! 
釣り針を失くした?
私の釣り針を?!!! 

兄の声がどんどん怒りに満ちて大きく激しくなっていきます。

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あの釣り針が、どれほど大切なものか、わかってるのか?!
ったく信じられない!!
お前が、馬鹿なことを言い出すからだ!!

どうしてくれるんだ!
私にとって、唯一無二の釣り針なんだぞ!!

本当に、ごめんなさい。ごめんなさい。

ふざけんな!
謝ってすむものじゃない。
絶対に許さないぞ!

山幸彦、いいか、あの釣り針を返せ!!
あの釣り針じゃないとダメだ!
取り戻してこい!!

何度も何度も、兄の前で頭を下げて謝りました。

でも決して許してもらえません。

今からでも海に行って、針を探してこい!

ただ「針を返せ」とわめき責めたてるのです。

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夜の海


山幸彦さまは、とぼとぼと、真っ暗な道を歩いて
海にやってきました。

波音と吹きすさぶ風の音だけが聞こえてきて、
何も見えません。
夜の闇が広がっているだけです。

私は、いったい、どうしたらいいんだろう……。

山幸彦さまは、ポツンと一人で、海岸に座り込んで
泣くことしかできませんでした……。

月の灯りだけが、山幸彦さまを見守っているようでした。

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失くした釣り針は見つかるのでしょうか?


―次回へ。

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