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どん底での救い 海幸山幸4 神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り。百六六

心を込めた償いと補償

こんにちは。皆さんはお盆休みでしょうか?
私は仕事の合間に、「ことの葉綴り。」のひとときです。
今日も海幸彦・山幸彦の物語の続きです。

兄の海幸彦の大事な釣り針を失くしてしまった山幸彦。
自分のしてしまったことの重大さを反省し、
どうしたら許してもらえるか、その過ちを償えるかを、
懸命に考えました。
そして、自分にとってのもっとも貴い十拳剣を、火で溶かし
鉄を叩いて、美しい五百本の釣り針を創りあげました。
貴い剣を台無しにしても、それで兄の釣り針を自ら打ってつくり
自分のしてしまった過ちへの償いの補償にしようと考えたのです。

そしてその釣り針を、海幸彦に差し出し、謝罪したのです。
その釣り針は、一打ち一打ち、心を込めたものでした。

ところが海幸彦は、その釣り針を一瞥すると、
「ふっ、こんなものが私の釣り針の代わりにならない!
早く私の釣り針を返せ!!」
と、これまでと同じように怒鳴りたてたのです。

それでも山幸彦は、あきらめずに
再び、十拳剣から、千本の釣り針をつくりあげました。
あの貴い剣は、もう形も残っていません。

そして再び、兄の海幸彦のもとを訪れて、詫びをいれました。

今度は、もう目を向けようともしませんでした。

「そんなもので私がお前を許すわけがない。出ていけ!
早く、私のもとの釣り針を返せ!」

無理難題をふっかけるだけでした。
決して許そうとはしてくれませんでした。

海の魚に持っていかれた釣り針
それ探し出すなんて、到底できません。

さすがに懸命になんとかしなければと
考えに考えて、謝罪をして
代わりの釣り針をつくりましたが、
山幸彦の気持ちも、もう限界にきていました。

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人生のどん底で

ただ涙がぽとぽとと頬を伝います。

嗚咽しながら、気が付くと海辺に来ていました。

浜辺までくると、もう一歩も進めず
泣き崩れてしまいました。

ただただ、悲しくて
ただただ、途方にくれて
ただただ、泣くばかり……。

どれほど、そうしていたでしょう。

絶望の中で、泣き疲れ果てた山幸彦は、ただ、ぼう~っと
放心状態で海を眺めていました。

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まさに、山幸彦さまにとって、これまで生きてきた中で
どん底の状態でした。

そのときです。

浜辺の向こうから、一柱の影が近づいてきます。

山幸彦は、まったく気がついていません。


その影は、山幸彦の姿を見つけると
優しく声をかけてきました。

これは、天つ神の御子どの、皇太子さまではありませんか……。

そして、山幸彦から少し離れて隣に腰かけました。

さて、御子どの、どうされたのです?
何を嘆かれているのです?

その声は、山幸彦の心に優しく響いてきました。

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老賢神の傾聴

その声の主は、海の潮路を司る塩椎神(しほつちのかみ)でした。
『日本書紀』では、塩土老翁と書かれています。

その年老いた老賢人の神さまのお姿は、
山幸彦の絶望したこころを、どこか安心させてくれました。

そうですか。
実は私は、兄と道具を交換してくれとお願いしました。
そして兄の釣り竿と釣り針で、海へきましたが、
魚釣りをしているときに、大事な釣り針を失くしてしましました。


山幸彦は、隣に腰かけた塩椎神にむかい、
ぽつりぽつりと、これまでのことを話しだしたのです。
山幸彦の言葉に、塩椎神は、黙って傾聴し聞き入っていました。


なんとか、兄に詫びて償いたいと、多くの針をつくりましたが、
受け取ってもらえませんでした。
あくまでも、「元の針を返せ」の一点張りで……。

もうどうしていいか、わからないのです。


誰にも相談できない心の中の叫びを
山幸彦は、すがる思いで、塩椎神へと語ったのでした。

塩椎神は、ずっと、ずっと山幸彦の言葉に、全身全霊を傾けて話を聞いて受け止めてくれました。

まるで、カウンセリングの傾聴です。
山幸彦の心も、少しずつほぐれてくるようでした。

私たち人間も、人生最悪だと思ったどん底で、
絶望の淵で、あきらめかけたときに、
救いとなる人や何か、サポートと出会うことがありますね。

山幸彦さま……どうなるでしょう……。

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―次回へ。

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