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火の神誕生の意味 伊邪那岐・伊邪那美さま⑯ことの葉綴り。其の六八

妻の死に慟哭する夫神・伊邪那岐命

こんにちは。今週は仕事をしつつnoteに向かう、サボり屋です。
神話の神生みのくだりで、漢字が多いのですが。どうか「八百万の神さまだから」と、ご了承くださいね。

日本の神さまとは、
この世界にあるすべての事や物の働きで、
その働きに、神聖なるものを感じ
お祭りしています。今も……。

初のご夫婦神の伊邪那(いざな)岐(ぎ)・伊邪那(いざな)美(み)さま。
「国生み」と、大自然のさまざま「神生み」をなさいました。

母神・伊邪那美命さまのように
国土を産まれた神さまは、
世界の神話の中でも類をみない女神さま。

けれど、「火」の神さまを
お産みになったことで、
陰部を大火傷し、床に寝付かれて。
寝付かれ苦しみながらも、
体から排出する“もの”からも
み霊の宿る神さまをお産みになり
やがて、静かに命は尽きたのでした……。

夫である伊邪那岐命さまも、
御子の三十五の神さまも、
ただ、枕元で手を取られ
お泣きになりました。
御子神たちも
母神さまの手を握り
母神さまの足をおすがりになり
お泣きになりました。

伊邪那岐命さまは
「ああ~愛しき美しい我が妻が
火の神という、子どもの一人の命と
引き換えに……
亡くなってしまうとは……」

あまりのショックから
枕元に腹ばいになられて
慟哭されたのです。

愛する妻を失ひ、一人残された夫の伊邪那岐命さま。
伊邪那美命さまの亡骸にすがられ、
その深い悲しみの涙からは、
大和の天の香具山の
畝尾の木の本にます、
悲しみの涙の女神
泣澤女神(はきさかめのかみ)が
お生まれになりました。

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神生みの流れの意味

悲しい物語なのですが、
ここで少し振り返ってみます。


偉大なる母神・伊邪那美命が
お産みになり、死の原因となった
「火の神」の火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)。

伊邪那美命さまがお産みになられてきた
「神生み」の神さまの流れは、
古代から続いてきた農耕社会から
鉄器文明へという
「時代の変遷」も現れているのです

伊邪那岐伊邪那美さまの物語は
今回で16回目ですが
ぜひ、よかったら最初から読み直してみてください。

宇宙の真ん中に在った神さま
その「いのち」と「ひかり」を
受け継いて、連綿と
天と地がわかれ
空、雲、島と地上ができ
国土があらわれ
家屋の神があり
川、河口、水があり
そして大自然が成立し
食物の神さまも誕生し

ものを焼き尽くす「火」が登場しました。

火は、メラメラとあらゆるものを焼き尽くしていく
恐ろしさがあると同時に
邪を焼き払い浄化もする

けれど、それを人がうまく使えるようになっていく。

そこから、人間の「文明」も誕生していきます。

日本の神様は、唯一神の絶対神ではありません。

これだけ多くの神さまがいて
大自然も、荒ぶり猛威をふるわれると
人は、もうどうしようもありません。

古代の人は、その自然とどう共に生きるか
自然の声を聞き、波長を合わせ
自然の胎動を感じてきた。
そこに、語りかけること
恵みには
「ありがとう」と、感謝をする。
鬼のように激しいときには
「どうか鎮まってください」と
敬いと畏れを持って手を合わせる。


それこそが
祈り

で、あったのではないかと思います。

自然の中に神さまを見てきた先人たちは、
火の神さまの登場により
そこから、金の鉄器文明
粘土などの土器文明

その火と土器と水で
食物を煮て焼く、食の熟成

と、人として自然と
どう生存していくかの道を切り開いてきた。

さらに、火の登場により
人が火の威力ともどう向き合うか
それを“使う”ことにより生まれた文明がある。
それを、この神話は教えてくれている気がしませんか?

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火の神と母神

すべてを焼き尽くしていく火
火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)さまは
母神である伊邪那美命さまの
死の原因となる火傷を負わせてしまいました。

伊邪那美命さまは、ご自身の身を犠牲にされて
次の世代へ、時代へと文明へと
繋がっていく火の神を誕生させてくれたのです。

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世界中の神話にも、
火の神は登場しています。

インドの神話では、
火の神のアグニは
生まれてすぐに、
自分の両親を食いつくした
とされています。


「西洋のギリシャ神話では、
人間に対する神の厳しさがある」

心理学者の河合隼雄氏は、語っています。

人間には「火」を与えてやるものか!
と、主神のゼウスは考えていました。
けれどプロメテウスは、人間の火のない生活に同情して
天の火を盗み出して
人間に火を与え恩恵を与えます。

そのことで、プロメテウスは、
ゼウスから大変な怒りをかい、
コーカサスの大きな岩に、磔にされて
大きな鷲(はげ鷹とも)に、
腹を引き裂かれ、肝臓をついばませ続ける、
そんなむごい刑に処されます。

悲しいことに、不死身だったプロメテウス。
鷲が食い荒らした肝臓は夜の間に元に戻り
毎日、この地獄のような罰を与えられたのです。


旧約聖書のアダムとイヴが、
木の実を食べて、「裸」であることを意識したことや、
このプロメテウスが火をもたらすことで
人間は「意識」をはじめ
それによって「悪」の存在を知ることになる。
このため、キリスト教においては
「原罪」というものが常に
人間に背負わされる。
これに比して、日本の「火」のもたされ方は、
まったく異なっている。
大女神自らが自分自身を犠牲として
火をこの世にもたらしたのである。
もちろん。これは神々の話で
人間は登場していない。
しかし、日本の場合、
神と人間の連続性が強いので、
神代の時代にもたらされた火は、
そのまま人間に継承されることになる。
しがたって、人間は、火の獲得のために
「罪」を犯す必要などないのである。『神話と日本人の心』河合隼雄著より

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今、同じ地球で生きている私たち。
神話は、そこで暮らす人たちの
精神性の元
となっています。

古来、私たちの先人たちの
自然への想い
神さまへの想いが溢れています。

火の神さまの誕生の物語からも
私たちの先人たちは
「罪」を犯すという概念はなかった
……のです。

なぜなら、偉大なる母神さまが、
命をかけて、火をもたらしてくださったのですから……。
私たちの精神性の根っこには
「原罪」という概念は、はない
のです。

ありがたい、と感じませんか?

今日は、最後に、
美智子上皇后陛下のみ言葉を
紹介して終わろうと思います。

国の神話や伝承は、正確な史実ではないかもしれませんが、不思議とその民族を象徴します。これに民話の世界を加えると、それぞれの国や地域の人々が、どのような自然観や生死観を持っていたか、何を尊び、何を恐れたか、どのような想像力を持っていたか等が、うっすらとですが感じられます……。皇后陛下「子供の本を通しての平和―子供時代の読書の思い出」基調講演より。

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―次回へ

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