消せない隠せない恋慕の炎 垂仁天皇11 ことの葉綴り。二八九
反逆者を討て!
寒くなりました。こんばんは。今夜は仕事を終えての「ことの葉綴り。」の夜です。
寵愛する皇后の沙本毘賣命(さほびめのみこと)と、その兄の沙本毘古命(さほびめのみこと)が、謀叛を起こしていたことを知った垂仁天皇(すいにんてんのう)。
涙ながらに、自らの罪を吐露した妻である沙本毘賣(さほひめ)のことは、強く愛するが故に、「兄の沙本毘古(さほびこ)にいいくるめられて仕方なくに違いあるまい……」と、赦すことを選びます。
しかしながら、謀反を企てて、命を狙い、その上、愛する妻に刃物を持たせた沙本毘古(さほびこ)のことは、けっして赦すことはできぬ!!!
と、怒りを露わにされると、沙本毘古(さほびこ)征伐の軍を起こしたのでした。
一方、妹の沙本毘賣(さほひめ)が、天皇暗殺を失敗し、謀叛の企てが垂仁天皇に露見したことを察知した沙本毘古(さほびこ)は慌てふためきました。
迎え撃つのみ!
まさか……我が妹、沙本毘賣(さほひめ)よ。
頸を打てなかったのか!?
早馬の知らせによると
天皇の軍勢は、すでに宮中を出て、沙本(さほ)の屋敷に向かっているとのことです。
しかし、もうここまできて引き返すわけにはいきません。
戦うしか道はなし!!!
皆のもの。
稲を屋敷の周りに積み上げるのじゃー!!!
待ち構えて迎え討つぞ!!
稲の俵を積んで稲城(いなぎ)の砦を急いでつくり、天皇の軍勢を待ち受けて、応戦する準備を進めます。
稲城(いなぎ)とは、俵を周囲に積み立て仮の砦にして、敵方の矢や石をよけるための防御策でした。
隠せない恋慕の炎
宮中に一人残された、皇后の沙本毘賣(さほひめ)は、
夫である天皇への罪の告白をして、自らは赦されました。
けれど、兄のことがいちばん大切で愛している、それは“事実”。
胸に宿りし、恋慕の炎は消すことはできません。
今度は、兄の命が絶対絶命のピンチです。
天皇は、決して兄を赦すまい……。
それは兄の死を意味しているのです。
そう、思うと胸が締めつけられるように苦しくてたまりません。
私は、自らの手で夫の命を奪うことはできなかった……。
けれど、大好きな兄に死んでほしくはない……。
心が、夫と兄の両極で振り子のように揺れています。
どちらが大切か?
どちらも大切……
けれど……
けれど……
どうしていいかわからず、ただ時だけが過ぎてゆきます。
そのころ、垂仁天皇と軍勢は、すでに沙本(さほ)の
沙本毘古(さほびこ)の屋敷の近くに到着していました。
火のついた矢を準備して、一斉に放つだけです。
垂仁天皇は、寵愛する妻をたぶらかし、我が命を奪おうとした反逆者の沙本毘古(さほびこ)も、その屋敷も、火矢で焼き払おうとしていました。
戦の、運命のときは、一刻一刻と迫っていました。
愛しい兄のことが心配でたまらない。
もう~隠せない……!!!!
沙本毘賣(さほびめ)は、誰にも打ち明けず、知られることなく、宮中を抜け出して、沙本(さほ)へと、一人駆けて向かっていたのです。
兄への恋慕を抑えることは、もうできなかったのです。
それが、どんな結末を迎える“恋”なのだとしても……。
ときに、私たちも、心の想いの深さ、何かわからない言葉や頭では測れない衝動に衝き動かされてしまうことがありますよね。
どうしようもない
ただ、そうせずにはいられない。
これは、垂仁天皇、沙本毘賣、沙本毘古にとって
決して避けては通れない、「縁の糸」だったのかもしれませんね。
―次回へ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?