不思議な少女の“不気味”な歌 神話は今も生きている ことの葉綴り。二六九
怪しい歌を歌う少女
こんにちは。今日もお仕事が一息ついた日暮れから「ことの葉綴り。」に向かいます。もうすっかり真っ暗になりました。
さて、神話の物語の続きです。
第十代、崇神天皇(すじんてんのう)の御代、
「四道将軍」(しどうしょうぐん)と呼ばれる、
信頼できる叔父や弟、従兄弟を、諸国平定のために各地に遣わします。
そしてこの御代、多くの困難が待ち受けていました。
叔父であり舅でもある大毘古命(おおびこのみこと)は、
北陸地方の「越の国」平定へ向かっていました。
山代(今の京都府の南部)の幣羅坂(へらさか)を通り抜けようとしていたときです。
腰裳という、腰に短い喪をまとった服を着た少女が、坂の上に立って、歌を元気に大きな声で歌っています。
♪御眞木入日子はや 御眞木入日子はや♪
己が緒(おのがを)を 盗み殺せむと
後つ戸(しりつと)よ い行き違(たが)ひ
前つ戸よ い行き違(たが)ひ
窺(うかがは)く 知らにと
御眞木入日子はや♪
さて、どういう意味でしょう?
御眞木入日子はや(これは崇神天皇のことですね)
♪あ~御眞木入日子はや~、あ~御眞木入日子はや~♪
誰かが、秘かに、お命を狙っています~
そして、裏の門を、行ったり来たりしていま~す
表門も、行ったり来たりしてお命を狙っているのに~♪。
それを知らない~あ~御眞木入日子はや♪
不思議な少女(おとめ)
な、なんと、暗殺をほのめかす歌詞です。
しかも、それを歌っているのは、まだあどけない子どものような少女(おとめ)なのです。
一気に“サスペンス劇場”になりました!(^^)
馬に乗り幣羅坂(へらさか)を通っていた大毘古命(おおびこのみこと)は、この不気味な歌の詞に驚きます。
大王を、呼び捨てにして、しかも暗殺をほのめかしている、
なんと不吉な歌を歌っているのだ。
怪しい!!
そこで、大毘古命(おおびこのみこと)は、馬を引き返して、
その歌を歌っていた少女に言葉をかけて、こう問いました。
そこの少女(おとめ)よ。お前が歌っている歌は
いったいどういうことだ?
なんのことを歌っているのか?
その少女(おとめ)は、何を言っているのだろう? という表情で
大毘古命(おおびこのみこと)にこう答えたのです。
そんなこといっても、私は何も知~らない。
だって、ただ歌を歌っているだけなんだもん
そういった瞬間、少女(おとめ)は、身体の向きを変えて、駆け出していってしまいました。
あっという間に、姿を消して、行方もわかりません。
見つけたと思って近づいても、次の瞬間には、見失います。
配下の者たちが手分けをして探しても、結局見つかりませんでした。
いったいどこへ消えたのか? なんと不思議な……
突然、現れて消えた不思議な雰囲気の少女と、
暗殺をほのめかす不気味な歌を聞いた大毘古命(おおびこのみこと)は、歩みを止めると、一路、大和の都へと戻っていったのでした。
―次回へ
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