平野悠

読んでしあわせな気分になれるような小説を書いていきたいな♪

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マガジン

最近の記事

がんばれ、ブルー。

「ぼくはヒーローになるんだ!」  4歳の息子はそう言って、見よう見まねの筋トレに励むようになった。日曜朝のヒーロー番組が影響したものらしい。小さいうちから筋肉隆々なんてやめてね、と思うものの、同番組を一緒に楽しんで見ている母としてはちょっと嬉しい。「そうか、うちの息子はヒーローになるのか。頑張れ」と、生あたたかく見守ることにした。  あれから5年。息子は今日もヒーロー目指してトレーニングを積んでいる。小学校入学後に始めた空手は特に気に入って続けているが、本人としては剣道に

    • 思い描くものたち

      『ぱらぱらぱらぱら』  さて、これは何の音でしょうか? 「はーい!」  という元気な声とともに、何人もの手が挙がる。 「本をめくる音」 「雨が降ってきた音」 「トランプをきってる音」  こうやって、と手真似する。手品みたい、と別の声が言う。二つに分けたカードの束をそれぞれ左右の手で持ち、それを左右のカードが素早く交互に落ちるようにして再び一つの束にしていく方法だ。 「ほかには何かな?」 「少しの人だけ拍手した音」 「ビーズを落っことした音」 「落ち葉の落

      • いいこと日記

         朝食前に日記を書く。朝のうちに前日のことを思い出しながら文字を書くのは脳の活性化にいいと聞いて、それまでより20分早起きするようにして始めたことだ。この頃ようやく習慣になってきたように思う。  もちろん書くのは事実ばかりなのだが、なるべく良いことを書くようにしている。反省すべきことは反省するが、朝から後ろ向きになってはいけないとも思うからだ。  さて、昨日の良かったことは……  朝の寒さがやわらいできたこと。朝食をおいしく食べられたこと。歯医者がすいていて治療がすぐに

        • おとずれ

           夜半に降り始めた雨は激しく、私の夢の中でも降り続けた。夢は全体的に青色に包まれ、やがて私は夜明けを迎える。青く雨に閉ざされた、けれどほのかに明るく空気の澄んだ夜明けだ。  雨の中に立つ私が何を思っていたのか、それは今となってはもうわからない。ただ、全身に浴びる雨にも寒さを感じず、髪や衣服が張りつく不快さもなかった。夢だからだと頭のどこかで考えていた。  空を見上げても雨雲らしきものは見えなかった。空もぼんやりとした青に覆われていて、天と地の境がわからない。世界のすべてが

        がんばれ、ブルー。

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        • 書くことへの指針
          1本

        記事

          月と財布

          「満月に向かってお財布を振ると金運が上がるんだって」  そんな話を友人から聞いた。数年前のことだ。  迷信というのか民間伝承とでもいうのか、科学的にはまったく根拠のない話だったけれど、試してみたらちょっとだけ運が良くなった……ような気がした。  例えば、その頃やっていたバイトの時給が5円上がったとか、バイトのメンバーにも少しのボーナスが出たとか、宝くじで1000円当たったとか、古い日記帳に五百円札(!)が挟まっていたとか、そんなちょっとしたことだったので満月との関係は定

          月と財布

          目覚めと祈り

           ぽっかりと目が覚めた。頬に当たる空気はまだ冷たい。カーテンの隙間から白み始めている空が見えた。  隙間と言っても、これは「うっかりあいてしまった間」ではなかった。今のようにアラームとは関係なく意識が浮かんだときに昼夜の区別がつくように、わざと開けてあるのだ。  横になったまま耳を澄ましてみる。鳥の声がいくつか聞こえていた。カラスとスズメだろうか。うるさくない程度に元気そうだ。それから遠くにオートバイの音。少し進んでまた止まる。きっと新聞配達だ。と思ったところで、近くにく

          目覚めと祈り

          彼女の見方

           何を良いと思い何を美しいと思うか。それは人それぞれだと、他人の感想に触れるにつけて思うものだ。侑子は今日も、パソコンの画面を睨みながらそんな思いにとらわれていた。  インターネットが普及し、それ以前の何倍もの情報がもたらされるようになり、さらに、企業や公人ではない一般の人たちの発信する情報量が格段に増えた。玉石混淆となるのは仕方のないことで、その取捨選択も同時に課せられたのだと思う。それに辟易することもままある。  それでもそれらの言葉を遠ざけようとしないのは、ネット環

          彼女の見方

          結構初期に登録したのになかなか使えずにいたnote。今年に入ってやっと使い始め、2カ月が過ぎました。ぽつりぽつりと楽しんでいきたいと思います♪

          結構初期に登録したのになかなか使えずにいたnote。今年に入ってやっと使い始め、2カ月が過ぎました。ぽつりぽつりと楽しんでいきたいと思います♪

          ちょこっとずつですが、「スキ」を付けてくださった皆さん、フォローしてくださった皆さん、ありがとうございます <(_ _)>

          ちょこっとずつですが、「スキ」を付けてくださった皆さん、フォローしてくださった皆さん、ありがとうございます <(_ _)>

          四年に一度

          「あ…」  と、スマホの日付を見て小さく声が漏れた。寝ぼけた頭が動き出す。  2月29日。四年に一度だけの日付だ。 『四年に一度、この日にだけ現れる異世界への門がある』  昔読んだ漫画にこんなのがあって、作り話だとわかっているのにいまだに少しドキッとする。しかもその作品は門を見つけて開くまでの物語で、主人公が異世界へと旅立ったところで話は終わってしまうのだ。 『門の向こうはどんな世界だったんだろう?』  四年に一度、僕もこんなことを思う。  けれど目の前に門はな

          四年に一度

          迷いもひとつ

          「あら、こちらもいいわねぇ」  郵便局の片隅で、老婦人は細い目をさらに細めて切手に見入る。その嬉しそうな様子にこちらも笑顔になる。  以前はよくいらしていた方だが、ここ数か月、姿を見ていなかったように思う。背はしゃんとしているものの髪は白く、片手で軽く杖をつきながらいらっしゃるので、結構な年齢なのは確かだ。ご病気でもされたかな、と思わなかったと言えば嘘になる。  けれど、今見た限りではお元気そうだ。 「こちらでしたら裏がシールになっていますので、このまま貼れて便利かと

          迷いもひとつ

          おはようが言えなくて

           連日の朝寝坊。 『っていうかさ、眠れないんだよね、夜』  なんてことを思いながら、朝子はもぞもぞと布団を抜け出した。  ふかふかで温かい羽毛布団は、それはもう恋しくて恋しくて仕方がない。冬に限らず一年中、それはもう好きで好きで仕方がない。できることなら一日中この布団の中で過ごしたいくらいだ。きっとそう思っている人は世の中に数え切れないほどいるはず。でも多分、私が一番強くそう思ってるんだから。  なんてことを考えて再び布団に戻りたくなるのを、必死に抑えながら着替えてい

          おはようが言えなくて

          アイ・ラブ・コーヒーソング

           その店は気まぐれ営業もいいところで、行ってみて開いていればラッキー、くらいの気持ちで通う客も多い。  そう知ったのは三度目に店に入ることができたときで、その後の二回は見事にふられた。私はどうやら三回に一回しかその喫茶店へは入れないらしかった。  小さな店なのでテーブルも少ない。自然と一人客はカウンター席を使うようになる。そうすると、これまた当然のことながら、カウンター内で作業するマスターと話をすることになる。  客からのオーダー品をすべて出し終えると、ちょび髭の、でも

          アイ・ラブ・コーヒーソング

          雨には雨の、晴れには晴れの

           なんだか寒いな、と思ったら、外では静かに雨が降り続けていた。 『北は雪かな』  うっすらと曇った窓ガラスを指先でこする。やはり雪が降っている様子はない。  雨だというのに寒いなんて言ったら笑われる。冬に雨が降るなんて暖かい証拠だと、子どものころからずっと思ってきたのだ。冬でも半ズボンの子どもだって何人もいた。凍った道を自転車で手放し運転、なんて人も知っている。南関東へ来てからの時間のほうが長くなっても、雪の坂道をずかずかと歩いて転ばない。身体の覚えている感覚はとても面

          雨には雨の、晴れには晴れの

          缶詰に愛を込めて

           缶詰の蓋が開かない。  いや、「フタ」と言うのは間違っているのだろうか? だが「フタ:アルミ」と表示されているから、あれはきっと蓋なんだ。  とにかく蓋が開かなかった。缶切り不要の、プルタブを引き上げてそこから缶を開けることができます、というあの作りは本当に素晴らしいものだと思っているのだが、それだけにときおり遭遇する不良品の、自分だけ缶から外れて自由を得ようとするプルタブと、かたくなに缶本体から離れようとしない蓋部分には腹が立つ。 「お前ら、やる気あんのか?」  

          缶詰に愛を込めて

          明るき言の葉にて

           例年より少し長めの帰省から戻ってみると、出した数より明らかに多い枚数の年賀状が届いていた。集合住宅の大きめの郵便受けが頼もしく見える。  輪ゴムでまとめられた束を手に、自室への階段を上る。一人で住み始めて四年。今年は賃貸の契約を更新するか、新しい住居へと引っ越すか、決めなければならない。もう少し勤務先に近い場所にしてもいいかもしれないとも思う。  引っ越すとなったら、また転居の連絡をしなくては。同年代の友人・知人も同様に転居をくり返しているが、そのわりに新住所の知らせが

          明るき言の葉にて