明るき言の葉にて

 例年より少し長めの帰省から戻ってみると、出した数より明らかに多い枚数の年賀状が届いていた。集合住宅の大きめの郵便受けが頼もしく見える。

 輪ゴムでまとめられた束を手に、自室への階段を上る。一人で住み始めて四年。今年は賃貸の契約を更新するか、新しい住居へと引っ越すか、決めなければならない。もう少し勤務先に近い場所にしてもいいかもしれないとも思う。

 引っ越すとなったら、また転居の連絡をしなくては。同年代の友人・知人も同様に転居をくり返しているが、そのわりに新住所の知らせがなくて、昨年は何枚もの年賀状が宛先不明で戻ってきた。ネットや携帯電話で繋がっているので特段の不自由はないが、年始の挨拶ぐらいはあらたまった気持ちで送ろうと丁寧に手書きしたものだったので、届かなかった思いに気落ちしたことを覚えている。

 だから今年は、確実に届くと思える相手にしか出さなかったのだ。

 荷物を置き、部屋に風を通す。寒いがとてもいい天気だ。まだ一日は始まったばかりの時間で、こういう時間帯に旅を終えると明るい気持ちのまま次へ進める気がする。

『もうみんなは働いてるんだろうけど』

 同僚の顔を思い浮かべて「明日から働きます、ごめんなさい」と胸の中で頭を下げる。そうして一つ深呼吸をしてから窓を閉め、ゆっくりとはがきを眺め始めた。何人かは新しい住所がわかりそうだ。

 新しい連絡先を住所録に書き写すのは、彼女の好きな作業のひとつだ。デジタルではないのかと言われることもあるが、アナログで保存しておくほうが安心だった。普段の生活でパソコンは必需品になっているし、便利に楽しんで使っているほうだとも思っている。それでも、手で書く手紙が好きで、そのときには傍らに住所録を広げるのが自然な姿だと感じるのだ。

「あ、結婚してる…」

 笑顔の写真に言葉が漏れる。少しの妬ましさと羨ましさ、そして祝う気持ちが胸に漂う。

 そろそろ新しい住所録に変えよう。寒中見舞いと祝福を用意し、夏には暑中見舞いもはりきって書こう。

 さっそく決まった次の予定に小さくふわりと心が弾んだ。

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