思い描くものたち
『ぱらぱらぱらぱら』
さて、これは何の音でしょうか?
「はーい!」
という元気な声とともに、何人もの手が挙がる。
「本をめくる音」
「雨が降ってきた音」
「トランプをきってる音」
こうやって、と手真似する。手品みたい、と別の声が言う。二つに分けたカードの束をそれぞれ左右の手で持ち、それを左右のカードが素早く交互に落ちるようにして再び一つの束にしていく方法だ。
「ほかには何かな?」
「少しの人だけ拍手した音」
「ビーズを落っことした音」
「落ち葉の落ちる音」
「お塩をふりかける音」
「それなら、ふりかけだよ!」
おおーっと感嘆の声と、それもそうかと笑う声とが重なった。
「じゃあ、その様子を文章にしてみよう」
皆が一斉に頭を下げた。机の上に広げられたノートに、目と心と鉛筆を向ける。
さらさらと流れるように書く者、一文字ずつ丁寧に書く者、鉛筆の背で頭をかく者、消しゴムをかけた拍子に紙がくしゃりとなってしまう者……
ああ、なつかしい、と思う。
ここにいるのは二十年前の自分。好きなように話して、好きなように書いて、好きなように想像していた自分。
あの頃、言葉は自由だった。行き先がわからなくても歩き出せたし、途中で迷っても立ち止まらなかった。たくさん寄り道をしながら、たくさんの言の葉を摘んで歩いた。自由な想いのままに道はつくられ、どこまででも歩いていけた。私の両手にはいっぱいの言の葉が積まれた。
「できた」
前のほうの席で呟く声。満足そうな表情が上げられ、くるりと丸い目と私の視線が合う。
『大丈夫。この手の届くところに欲しい言葉は今でもたくさん咲いている』
静かな満足感に私も包まれながら、小さく笑ってかわいい瞳に応えた。
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