目覚めと祈り

 ぽっかりと目が覚めた。頬に当たる空気はまだ冷たい。カーテンの隙間から白み始めている空が見えた。

 隙間と言っても、これは「うっかりあいてしまった間」ではなかった。今のようにアラームとは関係なく意識が浮かんだときに昼夜の区別がつくように、わざと開けてあるのだ。

 横になったまま耳を澄ましてみる。鳥の声がいくつか聞こえていた。カラスとスズメだろうか。うるさくない程度に元気そうだ。それから遠くにオートバイの音。少し進んでまた止まる。きっと新聞配達だ。と思ったところで、近くにくしゃみの声を聞く。家のすぐそばの道を行く人だ。よく響いて、こちらが驚いた。

 布団の中で、私はまばたきを繰り返す。このまま起きてしまいたいような、もう少しまどろんでいたいような、なんとなくしあわせな逡巡。どうせ2時間以内には起き出すことになるのだけれど、今すぐ急かされて強制的に引っ張り出されるのではないというだけで、心はふぅわりと穏やかになる。

 そんな幸福な迷いの間にも空は明るさを増し、私は掛け布団から腕を出した。さらに10センチほどカーテンを開ける。南向きの窓から射し込む朝日はまだ多くはなく、強すぎないその光は私をゆったりとした安心感で包み込む。ふうーっと大きく息を吐くと、くすぐったいような笑いを覚えて布団を引き上げた。もう一度瞼を閉じる。

『私を包むこの平穏が世界中の人々のもとにも届きますように』

 静かな朝にはあたりまえにそう願えた。

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