缶詰に愛を込めて
缶詰の蓋が開かない。
いや、「フタ」と言うのは間違っているのだろうか? だが「フタ:アルミ」と表示されているから、あれはきっと蓋なんだ。
とにかく蓋が開かなかった。缶切り不要の、プルタブを引き上げてそこから缶を開けることができます、というあの作りは本当に素晴らしいものだと思っているのだが、それだけにときおり遭遇する不良品の、自分だけ缶から外れて自由を得ようとするプルタブと、かたくなに缶本体から離れようとしない蓋部分には腹が立つ。
「お前ら、やる気あんのか?」
と聞きそうになる自分には呆れる。
結局かり出された缶切りの、
「やっぱりここぞという時には私を必要とされるのですね。よござんす」
とでも言いたげな少し取り澄ました横顔は、職場で3カ月だけ先輩のKさんにも似て見える。
ようやく開いた缶詰の中身はマグロの油漬け。いわゆるツナ缶。いつも買うノンオイルタイプが品切れ中だったので、安かったこれを買ってきた。缶はともかく味は良い。つまみ食いしてみて少しは心が晴れる。
細く刻んだキュウリと和えて、マヨネーズ少々、塩、こしょう。食パンに乗せてオーブントースターで焼くこと2分。
「うん、いいにおい」
レタスとスライスしたトマトをその上に乗せ、コーヒーと一緒にテーブルへ。
「いただきます」
なんて簡単な食卓。なんて便利な暮らし。あぁ、腹を立てた私がばかみたい。
反省しつつ、大きく口を開けてかじりついた。
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