雨には雨の、晴れには晴れの

 なんだか寒いな、と思ったら、外では静かに雨が降り続けていた。

『北は雪かな』

 うっすらと曇った窓ガラスを指先でこする。やはり雪が降っている様子はない。

 雨だというのに寒いなんて言ったら笑われる。冬に雨が降るなんて暖かい証拠だと、子どものころからずっと思ってきたのだ。冬でも半ズボンの子どもだって何人もいた。凍った道を自転車で手放し運転、なんて人も知っている。南関東へ来てからの時間のほうが長くなっても、雪の坂道をずかずかと歩いて転ばない。身体の覚えている感覚はとても面白いものだった。

 細長いベランダは、手すり側の30センチほどだけが濡れている。雨が吹き込むような風はないのだ。植木鉢を手すり側に一列に並べ、冬でも平気な植物たちに水やりをする。同じ植物も、東北の実家では冬場は枯れる。ここは本当に暖かいのだと、冬になるたびに思ってしまう。

 本当に静かな一日だった。

 数日前までうるさかった水道管の工事は終わったのだろうか。(それとも雨で休みだろうか)

 先週は騒音以外のなにものでもなかった同じマンションの上の階の内装工事も、ようやく終わったのだろうか。(マンションはこれが困る)

 窓を閉め切る冬場には、夏のように他の家のテレビの音が聞こえてくることもない。(同じテレビを見てたりしてね)

 子どもたちは学校だろうし、この雨の中を遊び回るものもないだろう。(晴れててもあんまり外では見かけないけど)

 パン屋、豆腐屋、生協に、灯油売りや不要品引き取り、焼き芋屋の車さえ通らない。(せめて焼き芋食べたいな…)

 最近では珍しいくらい心が落ち着いて、気づけば仕事もとてもはかどっていた。

『こういう日ばっかりならいいのに』

 でもそれでは飽きるだろうか。思い切り走り出したくなる日もあるだろうか。

 とりあえず明日は晴れるらしい。夕方のニュースの最後にテレビで言っていた。

『いっぱいお洗濯しなくちゃ!』

 快晴の空にはためくシャツを想像したら、それもやっぱり素敵だと思えた。

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