四年に一度
「あ…」
と、スマホの日付を見て小さく声が漏れた。寝ぼけた頭が動き出す。
2月29日。四年に一度だけの日付だ。
『四年に一度、この日にだけ現れる異世界への門がある』
昔読んだ漫画にこんなのがあって、作り話だとわかっているのにいまだに少しドキッとする。しかもその作品は門を見つけて開くまでの物語で、主人公が異世界へと旅立ったところで話は終わってしまうのだ。
『門の向こうはどんな世界だったんだろう?』
四年に一度、僕もこんなことを思う。
けれど目の前に門はなく、そんな門があるという噂さえ聞いたことのない僕はこの日、世界ではなく自分を変えてみる。
学校や仕事を休んで少しだけ朝寝坊。いつもは着ないようなファンキーな服を着て映画館に行き、いちばん派手そうな映画を見終えたらあまり客のいない洋食屋で食事。いつもは照れくさくてできない募金をしたり、駅前の献血ルームまで出向いて献血をしてみたり。夕暮れとともに帰途につき、家ではのんびりと湯船につかる。そして、どうでもいいテレビを見てあははと笑う。
四年に一度、帳尻合わせのようにカレンダー上に現れる一日。その一日を、僕は僕の世界を変えるために使う。余分に見えて、余分じゃない一日。ちょっとずつ別のものが見えてくる自分。
『もしかしたら――』
異世界への門に、僕は少しずつ近づいているのかな?
自分の思いつきに小さく笑い、僕は静かに眠りについた。
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