武内颯人

小説を書いている。sketchofkonoha@gmail.com アイコン、ヘッダー…

武内颯人

小説を書いている。sketchofkonoha@gmail.com アイコン、ヘッダーはあきらど様(@aaakirrrd)

最近の記事

幸福に創作を

 今年の初の更新である。今年は去年よりうんと更新したいが、それが叶うのかはよく分からないので、まあ知らん。  一〇年前、ぼくがティーンエイジャーだった頃、さまざまな儀礼や風習というものに何の意味があるのかと首をかしげていることが多かった。物心がついた時には施設に入って一度も会うことなかったひい婆さんの葬式でも、だれひとりとして悲しそうにしていない身内だけの集まりに肩が凝ったし、やたらと日付を気にしては湯船にゆずやらネギっぽいなんかあれ、なんだっけ、あれを浮かべていたり、好き

    • 【同人誌レビュー】『ゾンビハンター香里奈のゾンビ鉈』

      『ゾンビハンター香里奈のゾンビ鉈』という作品について書いていこうと思う。  文学フリマ東京36で手に入れた本作は、大滝のぐれさんという作家によって書かれた……ジャンルとして表すのはなかなかむずかしいのだが、彼の書いてきた小説との連続性を考えれば、やはり純文学的な要素の強く出つつスリップストリーム的な要素のある一作となっている。  タイトルから分かるとおり、本作にはゾンビという存在が登場する。自我がなく、手当たり次第に人を喰らおうとする人の形をしたバケモノという、多くの人間

      • パクリ問答

        みなさんはなにをパクったことがあるだろうか。 なにもパクったことないわけないだろう。 ぼくは横山大観が藝大(にのちになった学校)の受験で近くの席の人の描き方をなんとなく真似して描いて受かったという話が好きだ。どんな巨匠も、模倣から始まるという感じがして。 先日投稿した、とある方からいただいたDMへの返答を引くような長文で返したさまをお届けしたのだが、ぼくはその内容のなかで小説を書くさい「とりあえずパクっていけばいいのだ」みたいなことを書いた。 それについて批判が来たわ

        • 武内さんは創作のアイディアが浮かばなくて困ったことはありませんか?

          ぼくは先日、とある方からDMを頂いた。ツイッターの相互フォローの方だったのだが、創作にかんする質問をしてもらったのだ。 書いているうちにどんどん筆が乗ってしまい、おおよそ人へ送るようなメッセージではないだろうという長さになった気がするのだが、読み物としてだれかが笑ってくれればいいと思うので、許可を頂いてここに掲載しておこうと思う。 当然質問をしてくださった方が特定されないように、一部文章や呼称については編集をしているので、あしからず。 それではどうぞ。 回答

        幸福に創作を

          ポートという後輩サークルが解散した。雑感

           ポートというサークルが文学フリマに出店していた。2018年5月から2023年5月までの5年ほどの間の話だ。  3人のメンバー全員がぼくの学生時代の後輩にあたった。彼らは基本的に、3人で短編を1作ずつ持ち寄って合同誌を制作していて、ぼくはそのほぼすべてを買って読んでいた。  そのポートというサークルが解散に至った。経緯も事細かに聞いているが、彼ら自身が発信していない以上ぼくはそれについては触れない。だから、解散したという事実についてのみ、ぼくは今回雑感を述べようと思う。

          ポートという後輩サークルが解散した。雑感

          『わたしを離さないで』を原宿で思い出す

           きっとこの一日を忘れないだろう。  ぼくはやや薄暗い店内でそう思った。まるで傑作小説を読み終えたときの感覚に近い。ある意味での完璧を、言葉が出てこない感動のなかに感じていた。 ――――――――――  ぼくは同人小説を書いているものだ。そして、文学フリマ東京という年二回行われるイベントに毎回参加している。  先日、5月21日に開催された文学フリマ東京36にも当然出店したわけだが、その一日はぼくにとってイベントの半分にすぎなかった。あくる22日は恋人との渋谷原宿を巡るデ

          『わたしを離さないで』を原宿で思い出す

          いつかのPV

           創作をするうえで重要なのは既視感だと、多くのクリエーターは言っているし、ぼくもまたそうだと思う。  こと映像において、その意見はかなりの主流派なのではなかろうか。  ぼくはまともに映像も作れない人間だが、それでも自作の小説を宣伝するためのPVを作ったりする。そのときに重要視しているのも、「なにかどこかで見たことのある」感覚だ。  創作で食っていける人間は少ないが、時代を変えるような先鋭的な作品を作り出せる人間はもっと少ない。  自分は他人とはまったく違うことをやって

          エア・ジョーダンを買いたいだけのやつ

           エア・ジョーダンを買いたい。  ナイキの作っているスニーカー、もともとバスケットボール選手のマイケル・ジョーダンのために作られた靴であるところのエア・ジョーダンを買いたい。  もう2足持っている。エア・ジョーダンを買いたい。  靴というものは、ぼくにとって安い買い物ではない。そもそもぼくはファッションに無頓着なやつだ。今でも無印とユニクロにシーズンに1回も行かないくらいの頻度で、基本無地のTシャツに黒いチノパンといういで立ちで生きている。  大学時代からずっと、履い

          エア・ジョーダンを買いたいだけのやつ

          『花と負け組』ver2019 序

           なんとなく思い出したし、備忘録的に書いておく。一瞬で終わる文章だ。  ぼくは5月21日、最新作となる長編小説『花と負け組』をイベントで頒布し、現在も通販で販売している。  読んでいただいた読者の方々からも感想が届きはじめていて、嬉しく思っている今日この頃だが、思い返せばこの作品、構想を練りはじめたのは2019年のことだった。 『花と負け組』は横浜、とくに関内、桜木町、といった観光地が舞台となる作品だ。この作品を書こうと考え付いたのも、ぼくが関内を歩いているときに「負け

          『花と負け組』ver2019 序

          飲み会は腹が減るもの

           飲み会というものをご存じだろうか。  知らないのならかなりのキッズと予想されるので、分からない漢字は大人の人に読んでもらってほしい。  みなさんは飲み会というものが好きだろうか。ほぼすべての人間が、メンツによる、と答えると思う。ぼくだって当然そうだ。  だがありがたいことに、つまらない飲み会というものには、ぼくはこれまで、あまり出会ってこなかった。職場でのそれも、学生時代のそれも、まあ捨てたものではないくらいの楽しみはあったし、今に至るまで飲み会というものを嫌だと思っ

          飲み会は腹が減るもの

          文学フリマ東京36行った

           文学フリマというイベントをご存じだろうか。まあ知らないのならこのページを開くことなどそうそうないだろうから、手短に済ませよう。  同人即売会のなかでも「文学」に特化したイベントとなっており、それだけだと一般的には地味な印象を抱かれるかもしれないが、今回の文学フリマ東京36の来場者数は一万を超える規模にまで成長した、刺さる人には刺さる即売会だ。 文学フリマ公式サイト  もれなく自分もぶっ刺さった肉の列に連なっているわけで、気が付くまでもなく出店者——本来なら「出展者」と

          文学フリマ東京36行った

          第19回 文字と位置――あきらどという立役者

           あきらどさんという方がいる。  この一年間ぼくの作品の表紙デザインを担当していただいた方だ。おそらくはイラストを担当している三好まをさんに注目がいってしまっている現状だろうが、氏の手腕がなくては最近四冊の本は完成しなかったことは明らかであると、ぼくはここで強く言っておきたい。ほかの方々がどのような形で同人誌の表紙を作っていっているのかはあずかり知るところではない。しかしながら弊サークルの表紙制作のなかで、常にイニシアチブを握り、的確かつ迅速にあの灰色背景の平面世界を構築し

          第19回 文字と位置――あきらどという立役者

          第18回『明日の世界』――227年後の自分はなにをしているのか

           227年後の自分はなにをしているのか、考えたことはあるだろうか?   結論からいうと、地球は滅んでいる。 『明日の世界』のあらすじ エミリーという少女のもとにテレビ電話がかかってくる。その声の主は第三世代のエミリー、227年後の彼女だった。クローン技術によって人の人生がほとんど無限に延長できるようになった未来、その人類の最果てからかかってきたテレビ電話は、超過額的な力で少女エミリーを未来の世界へと連れだしていく。  クローンのエミリーはオリジナルのエミリーにこれから彼

          第18回『明日の世界』――227年後の自分はなにをしているのか

          第17回 分裂する像――あるいは犬居さんという実存について

           こんにちは。自分は同人小説を書いている転枝という生き物だ。  今回は少し長くなるnoteかもしれないが、ともかくとして話題は絞っていこうと思う。  今回取り上げさせていただくのは、犬居さんというコスプレイヤー兼イラストレイターの方だ。弊新作『爪紅乙女』の表紙イラストを描いていただいた三好まをさんというイラストレーター様に、ぼくが参考資料としてあげた画像に含まれていた自撮りが、犬居さんのものだった。URLを貼っておくが、アニメ『ガールズ&パンツァー』の大洗女子学園の制服を着

          第17回 分裂する像――あるいは犬居さんという実存について

          第16回『エイプリルフール』――幽霊と写真と文学

           ぼくの家にはモルモットがいる。おそらく今年中に死んでしまうモルモットが。   彼の写真は何枚かスマートフォンに記録されているのだけれど、もしあのげっ歯類が死んだ後それを見返したとしよう。それが生前のモルモットを撮影したものなのか、それとも彼の魂が写ってしまった心霊写真なのか、それを区別できる自信が持てるのだろうか。   目に見えるということは、果たして「真実」を意味しているのだろうか。  平井呈一という小説家がいる。本来はイギリス文学の翻訳家と紹介するべきところなの

          第16回『エイプリルフール』――幽霊と写真と文学

          第15回『闇は静かな星の揺籃』――たけぞう氏の作品について

           たけぞうさんという方の『闇は静かな星の揺籃』という作品を読んだ。  本作の舞台は西洋を思わせる場所で、時代は近現代の戦地近くのキャンプだ。  主人公のラーニャは、戦地に派遣された従軍シスターで、下賤な牧師に関係を迫られたところをグレンという兵士に救われる。グレンも過去聖職者であったという過去が語られながら、なぜ彼が兵士となるにいたったのかという謎が明かされていくという物語だ。  シスターであるラーニャは、自らを神へと身を捧げた人間であるとしている。シスターとは神の伴侶

          第15回『闇は静かな星の揺籃』――たけぞう氏の作品について