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第15回『闇は静かな星の揺籃』――たけぞう氏の作品について

 たけぞうさんという方の『闇は静かな星の揺籃』という作品を読んだ。

 本作の舞台は西洋を思わせる場所で、時代は近現代の戦地近くのキャンプだ。


 主人公のラーニャは、戦地に派遣された従軍シスターで、下賤な牧師に関係を迫られたところをグレンという兵士に救われる。グレンも過去聖職者であったという過去が語られながら、なぜ彼が兵士となるにいたったのかという謎が明かされていくという物語だ。


 シスターであるラーニャは、自らを神へと身を捧げた人間であるとしている。シスターとは神の伴侶であり、それ以外の人間に恋をしないという誓いを立てているのだ。この誓約は作中何度も言及される、一つのキーワードとなっている。

 聖職者の世界観にとどまらず(もちろん関係ないとは言えないのだが)人は自身の愛情の証明として、ただ一人の人間以外には関係を迫らないという態度を表明しようとする。同時に二人の人間を好きになるという態度を「不誠実」だとする価値観は、今の世の中にいたるまで広がっていく暗黙のルールの一つだ。この物語の本質は神という絶対的なものとなっている存在(タイトルの「星」はまさにこの隠喩であるわけだ)に恋をしている主人公が、そこから外れた自身の感情とどう向き合うのかという問題がフィーチャーされている。一度誓った約束は、この物語のなかでは倒錯を繰り返し、守った者が守られていたりだとか、入れ子状の愛にまつわる行動が描写されていく。


 この連続した運動に、ぼくは非常に好感を抱いた。誰かの愛を高らかに叫ぶのではなく、人はそれぞれがそれぞれの形で愛情を持っていて、かつ表現していく。神だけが、表現までは至っていないのかもしれないが。



 この本を読んで思ったのは、ぼんやりとしているが以上のようなことだった。作劇としてもシンプルにまとまっていて、これはたけぞう氏の手腕の奥深さを窺えるくらい、手慣れた様子で組まれていたように思う。また彼の本を買いに行こう。


 イベントが総潰れになった夜に思う。夜の雨粒を聴きながら。

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