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生活と考えたこと。

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ネイルは、捨てていた憧れ

 デートのお迎えが来る30分前。  チップネイルという、爪型のプラスチックを両面テープで貼ることに苦戦している女がいた。 「貼れない貼れない貼れない…」  自爪にプラスチックの爪がくっつかず、両面テープはグルグルになる一方だった。  ちょっと爪が傷んだだけの女は、チップネイルに白旗を上げた。 「私はネイルとは程遠い存在なんだと、神様が教えてくれたんだ。」そう思った。  いつもそうだった。  ゆるふわパーマをオーダーしたのに、髪全体がギザギザになって、同級生からおばさ

    • 愛は色んな形をしている

      仕事が長引き、時刻は定時を回っていた。 ひと仕事終えた汗臭いハイエースで、 先輩と後輩2人で労いのコンビニに向かう。 誕生日なんて黙っていれば、 あってないようなものだ。 祝われるのは苦手で、 職場では素知らぬ顔を貫いていた。 祝ってほしいなんて気持ちは無いが、 こういう日に限って外での体力仕事が舞い込むと、「誕生日に何してんだ」と内心苦笑いだ。 汗と埃まみれの、気の毒な誕生日を自虐するつもりで「今日誕生日なのに…笑」と呟くと、 仲間たちは驚いていた。 コンビニに

      • 飲み会逃亡劇

        「今日の飲み会、来てくださいね!!」 後輩のY君が、当日会う度に何回も言ってきた。 彼は、いつも笑顔で明るく人懐っこい、子犬みたいな人だ。 「体調が悪くなければ行くね…」 彼と対照的な暗さをまとう私は、飲み会への苦手意識が強い。 それでも気に掛けてもらえることが嬉しかったから、苦笑いを繰り返していた。  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 安っぽい中華料理屋の2階。 座敷に鮨詰めになる成人30人の中に、私は正座をしていた。 後悔するまでの時間はかからなかった。

        • 浮気は正義か悪かーTinder上級者への質疑応答を通しての考察ー

          酷暑に魘されたと思えば、オアシスのような雨が降る今日この頃。 宇都宮は大洪水だったらしい。 雨と引き換えに得た涼しさに喜ぶも、 案外あっという間に有り難みは薄れる。 通勤の邪魔をする雨にうんざりし始めると、 戻ってきた晴れ間をまた歓迎する。 なんて自分は無い物ねだりな生き物なんだと感じて呆れる。 そんな帰り道に、薄い青を背景に虹が現れた。 遡ること2ヶ月ほど前、 短期間だけど、Tinderを通じて大学の同級生と遭遇した。  彼のことは顔だけ知っていた程度で、 他の

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          思いがけない嬉しい事

          17時15分を過ぎて、「お疲れさまでしたー」と続々と帰る人たち。 パソコンの電源を落とし、ぬるっと帰る支度をする。 「晩ご飯は家にあるもので済ませられそうだから、まっすぐ帰るか…」と、デスクを去るにあたって息を吸い込んだとき 横からズンズンと人が向かってくる気配がした。 後輩のY君であった。 彼は課のなかきってのお調子者である。 明るく元気で、それが誰に対しても同じ調子なものだから、私は彼に心を開いている。 「先輩、二郎系ラーメン行きませんか?部活前にSと行くんで

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          夕食前の宿のベランダ

          8月も下旬となれば夜には生温い風が吹く。 海により加湿された空気は、宿泊客を包み込む。私はその1人だ。 地平線にある強く白い光の粒たちは、何カラットのダイヤモンドか。それが何粒もあることが、この海の豊かさを物語っているようだ。 日没後も、まだ暗くはない。曇り空の向こうにあるはずの夕陽に気持ちを馳せる。 夜はこれからだ。昼間に蓄積した脚の疲労も、温泉水に流されて、この海に葬られることだろう。 だからか。さっきの温泉のしょっぱさは、汗の味なのかもしれない。 そんなことをベ

          夕食前の宿のベランダ

          客が入って来ない料理店

          エスカレーター付近にあるのに、人が入ってこない。 人々は、店前のメニューが書かれている立て看板を見ると、店に背を向けて去っていく。 こんなに帰られる店も珍しい。 恐らく、この店の値段設定の高さにその要因があるだろう。 1,500円くらいで食事できてよさそうなのに、ここのイタリアンはパスタ1つで2,000円以上する。LUMINEのくせに。 そして私以外の客たちはまた、恐らく、その値段設定の高さ故にか、異様に帰らない。 良くも悪くも、この回転率の悪さにより、この店は無

          客が入って来ない料理店

          学校嫌いで何が悪い

          新しいドラマが続々と始まっている。 その中の一つである『最高の教師』の第一話では、学校におけるいじめが題材となっていた。   私自身、いじめられた経験は無いが、 学校という場所や学生という立場が、 当時から、心底嫌だった。 そのことを、ドラマを観て思い出した。   教室のあの閉鎖的な感じ。 暗さと淀みの中で、 明るくあることを強いられる空気、もはや圧。 馬鹿の声こそ大きく響くから、 こういう場では天動説が正義になるんだろうなと思っていた。 机同士の距離が近くて、 嫌

          学校嫌いで何が悪い

          フィンランド旅行計画を通して感じた、無意識のすすめ

          小学生のときに、親に連れられ 地元の小さな映画館で『かもめ食堂』という フィンランドを舞台にした映画を観た。 シアター越しに感じた フィンランドの穏やかな風土は、 演出によるものだけではないと思った。 そのときから、 いつかフィンランドに行くことが夢になった。 中学生のとき、 友達が家族でフィンランドに行き、オーロラを見てきたと自慢げに言っていた。 私は、友達がオーロラを見てきたことなんてどうでもよくて、 ただフィンランドに行ったという事実が羨ましかった。 私の家族は

          フィンランド旅行計画を通して感じた、無意識のすすめ

          ミスから世界の優しさに気づいた

          仕事でミスをした。 出なくてはいけない会議の予定を失念し、 他の仕事で現場に出てしまっていた。 それに気づいたのは、 会議が開始してから30分後。 現場の自由時間に呑気にスマホを眺めてた時、会議についてのメールを見つけて思い出した。 「もう、会議もう始まってるじゃん…!!」 早くなる鼓動。 冷静を装うも、立ったり座ったりと 明らかに落ち着きがなくなる。 身体は動いてしまうのに、 脳はしゃがんでしまって、働くことを拒む。 硬直していて、思考する余白が無い。 とりあ

          ミスから世界の優しさに気づいた

          “幸せ”について考えてみた

          仕事に飲み込まれそうになることがある。   忙しいとき、少し睡眠が足りてないとき、ノルマやタスクに追われているとき。 嫌な同僚と関わったとき。 誰も悪くないようなミスが発生して、それが自分に降り掛かってきたとき。 困難案件について考えあぐねて、答えが見つからないとき。   脳内が仕事に占拠されてしまい、穏やかなマインドは、どこかに追いやられてしまう。   人間らしさを引き算した窮屈な人格になる。  心が搾り取られてしまっているから、もう自分の中にはアクのようなものしかなく

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          動く城に住める方法

           「ななつ星」という、九州を巡る超高級な寝台列車に憧れている。  1人65〜170万くらいするらしい。  それも、お金を払えば乗れるというものでもなく、抽選で当たった数少ない人しか乗車できないという非常に稀少価値の高い体験なのだ。  YouTubeで車内の様子が紹介されている映像を確認すると、重厚感のある車内や、高級料理のフルコース、客室も旅館のような雰囲気で、画面越しに圧倒された。もはや城だ。  いつか乗ってみたいが、そんなお金は無い。 せめて、また一つ夢ができたこ

          動く城に住める方法

          悲しむ他人、どうあるべきか自分

           課長が、二日連続で出勤していない。 「課長いますか?」課長宛の電話をとった。 「課長は本日お休みでして…」 「明日、課長から折り返しもらえますか?」  課長が二日不在なんてことは滅多に無い。  まとまった連休で、旅行にでも行っているのかもしれない。だとしたら、明日も休みかもしれないと思った。  近くにいた管理職に、課長はいつ出勤するのか確認した。  そこで知った。  課長の配偶者がくも膜下出血で倒れ、かなり危険な状態だということ。  私は、その方に会ったこ

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          飲み会が苦手だけど参加してしまう理由

           飲み会。苦手というか、嫌いである。  しかし、組織に属している以上、飲み会に参加しなければいけない場面は定期的に訪れる。  年度末に歓送迎会の。梅雨時期に暑気払いの。秋に忘年会の。冬に新年会の。出欠席をとる回覧が自分の机に置かれているから、不参加の欄に押された判子に目をやる。  子どもがいる女性職員らの判子たちの朱肉の赤さが、どこか誇らしげに見える。  飲み会に行きたくないが為に、子どもが欲しいまである。  子どもがいない私にとって、飲み会の出欠をとる回覧は言葉通り

          飲み会が苦手だけど参加してしまう理由

          煙草とレコードの夜

           私の好きな夜の過ごし方の話が更新された。  というのも、今日、レコードが我が家にやってきたのだ。  恐る恐る円盤に針を落とすと、少しのノイズの後に音が追ってきた。King Gnuの昔の曲。  煙草に火をつけて、他所の家の電気たちの数を数える。22時であれば、まだ6つの窓に灯りがある。  雨上がりの夜の空気は温泉街のそれだ。  部屋の中の空気には音が乗っている。そこに煙が混ざる。  煙草を吸うことはセックスのようだ。この体には強すぎる、セブンスターの7ミリ。  最中

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          初めての医療脱毛

           仕事終わり、5月ともなれば18時はまだ明るい。  飲み屋の灯りに紛れて、灰色のビルが申し訳なさげに佇む。  私はここに用があるのだ。  謎ビル特有の、電池が切れたおもちゃのような停滞感。入るのを躊躇わせる。  入ると、フロアを照らす蛍光灯の無機質な白さで目が冴える。  モスキート音のような雑音が聞こえる気がする。  エレベーターで3階に到着。  灰色の廊下を進むと奥に鍵の掛かったドア。   ドア付近の壁には、お目当ての美容クリニックの看板が貼ってある。  私は今日、初め

          初めての医療脱毛