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動く城に住める方法

 「ななつ星」という、九州を巡る超高級な寝台列車に憧れている。

 1人65〜170万くらいするらしい。

 それも、お金を払えば乗れるというものでもなく、抽選で当たった数少ない人しか乗車できないという非常に稀少価値の高い体験なのだ。

 YouTubeで車内の様子が紹介されている映像を確認すると、重厚感のある車内や、高級料理のフルコース、客室も旅館のような雰囲気で、画面越しに圧倒された。もはや城だ。

 いつか乗ってみたいが、そんなお金は無い。 せめて、また一つ夢ができたことを嬉しく思うしかない。




 そんなことを考えながら寝て起きて朝。

 窓の外を見ると、しっかりと雨だ。
 昨日までの晴れはどこへやら、雨の強さが梅雨を主張している。
 昨日と全く違う土地に来てしまったようだ。

 その日は丁度休日だったので、昨晩の残り湯を温め直して湯船に浸かった。
 そして、「もしこれが、ななつ星の一角だったら…」と想像する。

 ここは、文明の発達により、揺れが一切無い車内。
 YouTubeで紹介されていたあの部屋にはシャワーしかなかったけれど、今は揺れが無くなったことにより、簡易的な浴槽は設置することが可能になったとかで、今私はそこに浸かっている。
 うん、ありそうな話だ。


 風呂から出て、窓の外を見る。
 そうか、ここはやっぱり車内なのかもしれない。

 例えば、ハウルの動く城みたいなもので、私はこの部屋ごと移動しているとしよう。
 文明の発達により、新幹線よりも揺れを感じないで移動できているのだ。


 四季や天気などこの世には本当は無くて、部屋の外の環境の変化は、私が様々な土地を部屋ごと移動していることによって受けていた。
 つまり、今日は雨の村に来ているということだ。

 寝室の隅にある机は、畳一枚分を横にしたような窓に面していて、運転席に見えなくもない。

 スマホを確認し、明日は曇りの町に行く予定と知る。


 ディズニーリゾートの広告がTwitterでバズっていた。
 ピーターパンが女性の手をとり、ポスター中央部には「空の飛びかた、覚えてる?」というコピーが光る。

 大人になったらごっこ遊びをしてはいけない、なんてことは無いのだ。


 空の飛びかたを、私は覚えている。


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