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愛は色んな形をしている

仕事が長引き、時刻は定時を回っていた。

ひと仕事終えた汗臭いハイエースで、
先輩と後輩2人で労いのコンビニに向かう。

誕生日なんて黙っていれば、
あってないようなものだ。

祝われるのは苦手で、
職場では素知らぬ顔を貫いていた。


祝ってほしいなんて気持ちは無いが、
こういう日に限って外での体力仕事が舞い込むと、「誕生日に何してんだ」と内心苦笑いだ。


汗と埃まみれの、気の毒な誕生日を自虐するつもりで「今日誕生日なのに…笑」と呟くと、
仲間たちは驚いていた。


コンビニにて先輩が、私も含めた後輩たちに飲み物を選ぶよう勧めてくれた。

後輩2人はそれぞれペットボトルを選んでいたが、私は「水筒を持参しているから」と遠慮した。

それでも先輩は、
「誕生日だから、何か買うよ」と、
レジ横に鎮座しているホットスナックを指差す。

「ありがとうございます…」
申し訳なさ気にアメリカンドッグを指差した。


先輩にお礼を言いながらコンビニを出ると、
後から後輩たちが追って出てきた。


後輩2人はそれぞれ自らお菓子を買っていた。

食いしん坊だなと思ったのも束の間、
私に「誕生日プレゼントです!」と言って渡してきた。

さつまいも味のさくさくぱんだと、
ホワイトチョコ味のラングドシャ。

驚きと、気を遣わせてしまった申し訳なさと、嬉しさで心はカオスになった。

生温い夜風に当たりながら、コンビニの前で皆は飲み物を飲み、私は片手にお菓子二つを持ちながら甘いアメリカンドッグを頬張る。

何の予定も無い誕生日だったけど、
店内の光に照らされて談笑している4人の影を、私はきっと忘れない。

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別日。

時刻は、深夜2時半。
大学時代の後輩とファミレスに来ていた。



こんな夜中なのに、意外と客は多かった。
その半分くらいはおひとり様で、パソコンに向かって作業をしている割合が高い。

テキパキとホールをしているのは、
バッチリメイクの痩せたおばさん1人。
このおばさんが、この夜を守ってくれているように思った。

「この前の誕生日のお祝いできていないんで、ここは奢ります!」後輩が、ベタベタのメニュー表をバタバタと広げてくれる。

その勢いに流されるように、おずおずとメニューを見る。


図々しながらも、私はラーメンとパフェを注文した。後輩はお腹が空いていないからとクレープのプレートを頼んでいた。



「あ、水持ってきますね」
颯爽とドリンクバーに向かい、いそいそと注いでいるその後ろ姿を遠目に見る。


「氷ありと無し、どっちがいいですか?」
持ってきてくれたコップは、氷の入ったものと入ってないものだった。

「氷無しも持ってきてくれたんだね。氷の無い方がいいな。」

「先輩、いつも白湯飲んでましたもんね。」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

別日。

後輩の女の子と男の子と私の3人で、
二次会の大衆居酒屋に来ていた。


「先輩、さっきの小料理屋では元気だったのに、大人しくなっちゃった…」

大量の他人のおじさん達に圧倒され
無意識に萎縮し、不安を隠しきれずにいた。


「個室の居酒屋に移動しよう!」
「あの個室の店空いているか、確認してみるね!」
後輩2人は、段取りよく次の店の手配をしてくれた。

もうこうなってくると、どちらが先輩でどちらが後輩なのかわからない。

「先輩、これだけ飲んじゃってくださいね!」と急かされ、水滴まみれのみかんサワーを喉に流し込んだ。

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最近誕生日を迎えた27歳(彼氏無し)の滑り出しは、こんな感じだった。


特別に祝ってくれるパートナーはいないけれど、だからといって愛の無い日々を送っているわけではない。


愛は時として、アメリカンドッグで、
さくさくパンダで、ラングドシャで、
ラーメンとパフェで、水(氷無し)の形をしている。
そして、個室居酒屋を手配してくれる。


愛は色んな形をして、
私たちの生活に現れているように思えてならないのだ。

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