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初めての医療脱毛
仕事終わり、5月ともなれば18時はまだ明るい。
飲み屋の灯りに紛れて、灰色のビルが申し訳なさげに佇む。
私はここに用があるのだ。
謎ビル特有の、電池が切れたおもちゃのような停滞感。入るのを躊躇わせる。
入ると、フロアを照らす蛍光灯の無機質な白さで目が冴える。
モスキート音のような雑音が聞こえる気がする。
エレベーターで3階に到着。
灰色の廊下を進むと奥に鍵の掛かったドア。
ドア付近の壁には、お目当ての美容クリニックの看板が貼ってある。
私は今日、初めて医療脱毛に来たのだ。
2ヶ月前にカウンセリングで来院したことがあったものの、この怪しいビルの一角で行われる医療行為をどこまで信用していいのか、まだわからなかった。
チャイムを押し、鍵が開けられる音の後、若く清潔感のある女性が出てきた。
その開かれた入り口から溢れてくる電灯の生き生きとした白さは、私に安心感を与えた。
問診票記入後、施術を受ける部屋に通された。
全裸になって準備するよう告げられ、部屋に一旦一人になる。
準備の指示が書かれた紙の項目一覧に目を通す。注文の多い料理店かよ。
壁の灰色とその冷たそうな質感が、錆びれたオフィスを彷彿とさせるから、服を脱ぐことに抵抗感が生まれる。
施術台に横たわり、使い捨ての簡易的なバスタオルを掛け、無になる。
私はもう、逃げられない。
お姉さんが入ってきて、身体の各所を確認し、仕上げのシェービングをしてくれる。
意外と思いっきり刃を当て、手早くガシガシと剃ってくれる。その雑さが慣れていることを物語っていて、安心した。
私は牧場の羊となって、されるがままに毛を刈られる。
その後ジェルを塗られ、ひんやり且つ奥に熱さのある小型の機械が身体中を這いずり回るから、私は無になろうとした。
処理されている自分。自分の身体の不要物を取り除こうとするのは、何のため?と我に帰る。世間に好かれる為だとしたら、なんだかこの作業を通して自分が商品になっていくようにも思えた。
刈られて這いずられた後、ジェルを拭き取られ、ローションを塗られる。
もはや私は、下味が効いた鶏肉だった。
施術後のロビーにて、さっきのお姉さんに、毎日の保湿の為にローションとジェルを買うことを勧められる。
お姉さん上手に刈ってくれたしな、と羊は考える。
以前、美容脱毛に通っていた際も同じような案内を受け、胡散臭いと思った記憶が思い起こされる。
ここでもそう言われるなら、脱毛というのはそういうものなんだなと思い、二つともかった。
こうなりゃとことんいい鴨になってやるよ。
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