わたしの本棚:感じたそのままを大事にする 「山内マリコの美術館は一人で行く派 展」
高校生の頃、美術館や映画館は基本的に一人で行くと言った私に同級生が放った一言が忘れられません。
「一人で行くの!?それって楽しいの?」
楽しいよ!むしろ一人で行く方が自分のペースで鑑賞できて、余韻も楽しめるよ!と、その時も今もそう思っています。
そう思ったことのある人には、ぜひ読んでもらいたいのがこの本。
「山内マリコの美術館は一人で行く派 展」 東京ニュース通信社
書いたのは、小説「ここは退屈迎えに来て」や「アズミ・ハルコは行方不明」で知られる作家の山内マリコさん。彼女が2013-2019に自腹で訪れた展覧会のコラム集です。
この本は図書館で借りたのですが、読み終えた後すぐに楽天ブックスでぽちりました。我が家の保存本棚入りが決定したからです。
きっとこの本はこれから何度も読み返すことになると思いました。
文章が率直で、彼女がそのとき感じたことがそのまま書いてあって、読んでいるこちらの心も踊りました。アートの展覧会を見て、そのまま感じたことを言葉にするって、意外に難しいことじゃないでしょうか。
アートを見て心が動いたとしても、それはもわっとふわっとした形がないものであることが多いです。そんなに簡単に言葉になるなら、そもそもアートになっていないだろうし。
さらになんとなく自分が心動いたものの輪郭が見えてきたとしても、「あぁ、この人はわかってる人なんだな」って思われるような、それっぽい感想を言いたくなりがちです。見栄っ張りの私は特にそうです。
でもそこを山内マリコさんは、ぐいぐい読ませる軽快なリズムでありのまま表現します。作品そのものへの印象のこともあれば、作家の交友関係や家族関係を心配したり邪推したり、自分の趣味と結びついたり、コラムのアプローチは様々です。
どれもとても面白くて、次の展覧会はどんな感想なんだろう?とページをめくるときのワクワクが止まりません。
参考までに一例を。
2016年国立新美術館で行われたルノワール展については、こんな風に書かれています。
・・・人生の美しさ、みたいなものがキラキラした木漏れ日に凝縮されているけれど、その人生の美しさは、わたしの人生とはなにも関係ない感じがするのであった。
なにより、あのまぶしすぎる多幸感を、どう受け止めていいかわからないのです。
みんな大好き、ルノワール。
「幸福な絵だなぁ、ただただ幸福な絵だなぁ」と昔から思っていたけれど、そういうことだったのか!
自分が訪れた展覧会も、そうでない展覧会も。
コラムに共感できても、できなくても。
その展覧会を一種の追体験ができるのは、ありのままの感想と豊かな表現力によるものです。
今後展覧会に行ったら、自分の中にぼんやり感じたものをそのまま表現することに挑戦してみたい。思わずそれっぽいことを言いたくなりそうな時には、この本を読み返したい。
もう一つ我が家の本棚に置いておきたい理由は、物体としての本の完成度にあります。
美術館のポスターを模した表紙。「ごあいさつ」「目次」「凡例」で始まる、まるで展覧会を回っているかのような構成。美しくデザインされた各ページ。ブックデザイン好きにはたまりません。
中も外も、何度も手に取って確かめたくなる一冊です。
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