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小説 桜ノ宮

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大人の「探偵」物語。 時々マガジンに入れ忘れていたため、順番がおかしくなっています。
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#桜

小説 桜ノ宮 ㉘

紗雪は広季が滞在する部屋に美里を無事送り届けると、ゆっくりと廊下を歩きだした。
鼓動がいまさらになって早くなる。右耳の後ろから汗が流れた。
エレベーターを待っている間に肩を上下させて体をほぐすことを意識する。
間で大きく深呼吸をしてみた。
肩甲骨をぐるぐると回したあと、広季と美里のいる部屋を遠目に伺う。
ドアは閉じられたまま。
何の異変も感じられなかった。
エレベーターが到着し、ドアが開く。
なだ

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小説 桜ノ宮 ①

小説 桜ノ宮 ①

ありふれた春の午後だった。少し冷たい風に桜の枝が揺れていた。芦田広季は、定食屋から出てくるなり花びら交じりの風を浴びた。

大阪・桜ノ宮。

川沿いの桜並木へと吸い込まれるように歩いていく。

川から立ちのぼる生臭い匂いを阻止するために息を止めた。腐った青汁のような色をしたこの川を可憐な桜が包み込むように咲いている。
広季は人目も気にせずジャンプして桜の枝に触れてみた。着地するなりベルトの上の贅肉

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