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小説 桜ノ宮

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大人の「探偵」物語。 時々マガジンに入れ忘れていたため、順番がおかしくなっています。
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#親友

小説 桜ノ宮 ㉒

小説 桜ノ宮 ㉒

紗雪はおもむろにマスクを下げ、意を決して紫色の飲み物を口に入れた。
甘くてやたら舌や歯にまとわりついた。
紗雪の推理が確かならば、この飲み物は、かき氷のブルーハワイといちごのシロップを掛け合わせたものではないだろうか。
コップを盆に戻すと、マスクの位置を上げた。
これをどうしてお茶と思えるのだろう。
教祖がお茶だといえば、それはお茶だということなのだろうか。
お茶への疑問はまだあったが、紗雪はひと

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小説 桜ノ宮 ⑱

小説 桜ノ宮 ⑱

瀟洒な邸宅が立ち並ぶ静かな通りを行くと、公園に差し掛かった。
「可南~!」
甘い声を出しながら、広季が走り出した。
ブランコに乗ったその女の子は人差し指を口元のマスクに持ってきた。
その様子を見て、広季は走るのをやめてゆっくりと歩き出した。
紗雪はトレンチコートのポケットに手を突っ込み、二人の様子をうかがっていた。
「元気にしとったかー、可南」
「だから、静かにしてよ」
両手を広げて抱きしめる気満

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小説 桜ノ宮 ⑯

小説 桜ノ宮 ⑯

広季は朝からずっと泣いていた。
ネットフリックスで話題の韓国ドラマを観ているうちに、感情移入しすぎて気がつけば涙を垂れ流していた。
「お前、ほんまによう泣くなあ」
同じソファに腰掛けているスリムが呆れかえっている。
「年取ったら涙腺ゆるうなんねん」
「そうですか。あ、電話や」
テーブルの上で光るスマホをスリムが指さした。
広季はティッシュペーパーで鼻水を拭きつつ、スマホを取り上げた。
画面には、妻

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