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【短編小説#8】 問題

 教壇に立つ先生は、黒板に
【今日の問題:先生はどのようにあるべきか?】
と書き、言った。
「今日の問題は、先生はどのようにあるべきか? です。
 さあ、みんなでこの問題を考えていきましょう」

 いつも、ふざけたような質問をする、調子のよい生徒が真っ先に質問する。
「先生、意味わからないんですけど。これって何の教科ですか?」
「う~ん。教科はね、分類するとしたら、社会かな?意味はね・・・」
 先生は少し、考えた後、
「みんな、インターネットを使用したことがあると思う。
 先生が子供の頃は、インターネットがこんなにたくさん普及する前で、みんなと同じ年齢では、触ったことのある人の方が少なかった。
 更に、現代社会では、AIという人工知能により、コンピューターが様々な人の代わりの役割を果たしてくれるようになりました。
 授業も、ただ教えるだけならば、上手に教えてくれる先生の動画を見た方が勉強は捗るはずです。
 沢山の情報が、インターネット上には溢れています。先生よりもインターネットの方が物知りです。今後、先生は、必要なくなると思います。みんなは、どう思うかな?という事が今日の問題です。
 みんなが、先生はいらない。と思えば、そのようになるし。みんながこういう先生だったら必要だと思えば、そのようになる。
 ただ、それを考えなかったら。どのようにもなりません。今日、この問題が出されなかったら。みんなの目の前の世界は、どのようにもならないという事です。
 みんなは何も気が付かず。大人になって。いつか死にます。何かが起こるためには、心の中に何かが起こる必要があります。正解はありません。
 みんながこうであって欲しいと思う先生について考えること。それが今日の問題です。さあ、みんなで考えてみましょう」

 クラスの中でも、最も成績の良い少年が手を挙げる。
「はい。矢島君」
「こんなことを言って良いのか分からないんですけど、僕は先生はいなくてもいいと思います。だって、先生の話したように、勉強を教えるだけだったら教えるのが一番うまい先生の授業を聞いたらいいから。
 だから、勉強を教えることが目的ならば、先生はいらないです。
 先生はどのようにあるべきか?という事が、問題なので、勉強をうまく教えること、というのは先生のあるべき姿じゃないですね」

「はい」
隣に座っている、相沢さんが手を挙げた。
「相沢さん」
「逆に質問なんですけど。先生はどのようにあるべきだと思っているんですか?」
「そうね。私の答えは、あるけれど、それを、今話してしまうと、みんなはそれが正解だと思ってしまう可能性があるし、その話に影響を受けた発言になってしまうだろうから、その話は最後にさせてもらおうと思います。相沢さんの意見はどうかな?」
「私も、いなくてもいいと思っています。理由は矢島君の理由と同じで、勉強だけが目的だったら、一番教えるのがうまい先生でいいと思う」
「あらら、先生はいらないの意見が多いわね。やっぱり先生はいらないかな?このままだと、みんなの未来には先生がいなくなることが確実じゃないかな?先生も仕事がなくなってしまうけれど。ま、それが希望ならそれが一番いいんだよね」

 クラスの中でも、おとなしい存在の女子が手を挙げる。
「はい。今野さん」
「私は、先生は、いた方が良いと思う。ただ、その理由は分かりません。
ハッキリ言えないんですけれど、やっぱり先生はいた方が良い。
 だって、先生がいなかったら、みんなが好き勝手に行動することになる。
クラスはまとまらないと思います。学校に来る必要もなくなる」
「そうね。インターネットで全て済むようになれば、学校に来なくてもいいわよね。でも、みんなは学校に来ている。その利益、理由をハッキリさせておかなかったら、みんな不登校になってもおかしくないでしょ。だって学校に来る意味や理由がないんだもの」
「先生」
「はい。香川君」
「先生はいつも問題を出してくれます。
 勉強で言ったら、問題です。そして、その解答。
 普通の勉強でいったら、解答は決まっています。でも、今日の問題は解答が決まっていない。解答が決まっていない問題を出すことは、インターネットの授業ではできないんじゃないかな?だから先生は必要」
「おお~、香川~。いいこと言うね~。
 そうなんだよね。実は、正解がある答えはそこに辿り着くことが出来ることが確定しています。だから面白い。問題を解くという快楽が待っています。でも、今日の問題は解答がない。最後に快楽を得られる保証がありません。
 ただ、これまで、4人が話をしました。先生はいらない派2名。先生はいる派2名。どれが正解でもないし、どれが間違いでもない。そういう意見がある。という事を、みんなは知りました。
 みんなは、このクラスという世界で、4人の意見を聞きました。でも、このクラスには35人の生徒がいる。35人の意見がある。35人それぞれの心がある。このクラスは35人の心で出来ています。あ、先生も加えると、36人だね。
 学校を卒業すれば、社会に出る人もいると思う。そうすると、世界はもっと広くなる。何百人、何千人の心と触れ合うことになる。
 いい?みんな一人一人の意見が世界を作っています。まずはこのクラスで、自分の意見を、みんなに知ってもらう事。自分の心を表現すること。
先生はね、それが学校の存在する意味だと思います。
 じゃ、最初の問題に戻りますが、先生はどうあるべきか?みんなはどう思うかな?」
「はい」
控えめに手を挙げる女子。
「お。佐藤さん。どうぞ」
「私は、いつも、あまり話をしようと思いません。
 それは、自分に自信がないという理由と、誰かが私の意見を聞いてもあまり意味を感じない様な気がしていたからです。
 でも、今、みんなそれぞれの話を聞いて、先生の話を聞いて…それぞれの意見があって、それぞれの意見が世界を作っているんだなって思いました。
 学校に意味があるか?ないか?ということは、私自身の態度で決まるのかなって思いました。
 私が、意見を言えば、それに反応する誰かがいて、そこに意味が生まれる。逆に言えば、誰かが意見を言って、それに反応する私がいて、そこに意味が生まれる。
 ちょっと、話がまとまらないんですが…
 ええと。先生はどうあるべきか?についてですよね…
 みんなが話しやすい環境を作る事かな…
 私自身が、今、話さなきゃって思ったから…」
「なるほど。佐藤さん。勇気を出して発言してくれてありがとう。
 佐藤さんは、これまであまり発言をしなかったけれど、それはなぜなのかな?どんな気持ちがあって話が出来なかったか?教えてくれる?」
「そうですね。自分の発言が正解だと思えなかったからかなと思います。
 先生は、問題を出してくれて、その正解を教えてくれる。正解を教えてくれるから、それを待っていればいい。学校という場所は、正解を教えてくれる場所だと思っていたから、発言をしなかったんだと思います」
「佐藤さん。ありがとう。佐藤さんが言ってくれたように、自分の意見を誰かに伝えるという事はすごく大事なことです。誰かが何かを感じて、何かを思う。それはとても大切なこと。それがこの世界を作っていると言ってもいい。じゃ、ここで質問なんだけど、誰かが何かを感じて、何かを思う。それはどんな時かな?」
「はい」
一番後ろの席の、永野が手を挙げる。
「永野君」
「それは、先生が問題を出した時だと思います。
 今も、先生が出した問題、黒板に書かれた、先生はどうあるべきか?という事を考えているから。その問題が出されたときに、みんなが考えるんだと思います。
 でも、その答えが一つだったら、誰も発言しない。正解が決まってないと思うから、発言しようと思う。考えようと思うのかなって」
「見事だね。私が希望していた答えをありがとう。
 その通り。問題が起きた時。問題が出されたときにみんなは考えます。
 その時に、このクラスでいえば36通りの考え方が存在します。みんなちょっとずつ違う答えです。
 ただ、問題が出されなかったら、考えは生まれません。昨日、保護者から電話がありました。詳しい内容は伏せますが、先生はいじめが問題だとは思いませんか?問題を解決して、問題が起こらないようにするべきです。という内容でした。
 さあ、ここで問題に戻ります。先生はどうあるべきか?です。
 その保護者の方の意見ももっともです。問題が起これば、勉強は捗らない。効率よく勉強するためには、問題が起きない方が良いに決まっています。
 ただ、合理的に勉強するのだったら、最も教えることがうまい先生が教えればいいし、邪魔の入らないネットでの授業が一番良いという事になる。
 保護者さんの意見を取り入れれば、学校も先生も必要なくなります。
 どうでしょうか?先生は、学校の問題を排除して、解決して、効率よく授業を受けさせることがあるべき姿なのでしょうか?
 人が生きていくという事は、性格も違う、感情も違う、生活環境も違う人と関りを持つという事です。違うものが関係を持てば、そこには問題が生まれる。違いが生まれる。
 そして、そこに感情が生まれます。考えが生まれます。
 問題が起こってこそ学校です。問題を避けたら学校ではありません。
 起こった問題を、どうやって解決するのか?どうやって考えるのか?それが学校です。
 先生の役割は、問題を起こさない事でも、正解を教えることでもない。どのようにして考えるか?どのようにして世界が出来ているのか?それを人生の先輩として、伝えることなのかなって思います。
 問題があっていいんじゃないかな?その問題を考えることが皆さんの勉強になります。だから、私は、問題を起こします。問題を起こす人を歓迎します。
 いじめという問題があるのであれば、それについてみんなで考える。授業態度に問題があるのであれば、それについてみんなで考える。このクラスの誰かに悩み事や、問題があるのであれば、それをみんなで考える。
 一人一人が違うからこそ、お互いに助け合うことが出来ます。誰かの欠点は誰かの長所になり、誰かの長所は誰かの欠点になる。そうやって世界は出来ています。
 そういう事が学べる場所。それが、学校の存在する意味かなとも思いますし、先生の存在する意味かなとも思います。
 今日の問題の解答は決まっていません。
 ただ、私の気持ちはこうだって、表現しましたから。みんなにも、自分の気持ちはこうだって、表現してほしい。そういう場を作る事。世界はどんなふうに出来ているか?
 それを学ぶお手伝いをすることが、先生のあるべき姿かなと思います。
 さ、先生はどうあるべきか?ということを問題にしたから、今度は、生徒はどうあるべきか?だね」


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