ファインマンの人生と科学3
しばらく物理学者のファインマンの人生を通じてサイエンスネタをお届けしています。
前回は、ノーベル物理学賞を共同受賞した朝永振一郎や、ライバルのゲル-マンとの逸話を中心に、専門である素粒子物理学の分野について触れました。
今回は、素粒子の応用で野心的に取り組もうとしたテーマに触れてみたいと思います。
以前に、ファインマンデビュー戦の聞き手の一人がアインシュタインだった、というエピソードを紹介しました。
その時のテーマは、電磁気の現象を粒子単位に分解してその相互作用を論じるもので、アインシュタインは(パウリの全否定に対して)好意的でしたが、1つだけ但し書きを添えます。
「但し、重力に適用するのは難しいだろうね」
もしかしたら、ファインマンはこの言葉が残っていたかもしれません。
1940年代に量子電磁力学の研究がひと段落すると、次は「重力の作用」について関心を寄せます。
アインシュタインと聞くと、時空の概念に革命を与えた相対性理論を思い浮かべる方が多いと思います。
今までは、量子力学と電磁気学しか触れませんでしたが、光速不変の原理を唱えた「特殊」相対性理論はすでに量子電磁力学に織り込んでいます。
ただ、時間・空間と重力が相互作用する「一般」相対性理論だけは組みこめていませんでした。
この量子力学と一般相対性理論を統合した理論を、分類呼称としては「量子重力理論」と呼ばれ、なかでも「超ひも理論」と「ループ量子重力理論」が有名です。
過去にもそれぞれ雰囲気が分かるレベルで紹介したので、引用にとどめておきます。言わずもがな万物の理論を目指しているので超難解です・・・。
ある意味、好奇心の強いファインマンがそこに興味を持つのは自然だと思います。
1962年に大学院生向けに行った重力に関する講義が書籍にもなっています。
折角なので関連で触れておくと、同時期に行った学部生向けの講義を整理した「ファインマン物理学」は今でも人気は高いです。(初心者向けではないかもしれませんが・・・)
まず、ファインマンの量子重力理論へのアプローチ方法について。
ファインマンは元々電磁気学に、(特殊相対性理論と)量子力学を織り込んだ分野を専門にしており、その流れで重力も取り込めないか?と考えました。これは専門から考えると極めて自然な拡張かなと思います。
電磁気学ではマクスウェルが電磁波を予言し、その力を媒介する粒子の相互作用への研究がファインマンの功績です。
同じようにアインシュタインは、一般相対性理論を完成した直後に重力波を予言しました。そしてその力を媒介する「重力子(グラビトン)」も提唱されています。
もともとは、電子や光子を粒とみたてた相互作用を図式化したのがファインマンダイアグラムで、その方式に重力子を織り込もうとしました。
ただ、重力の大きさは他の力よりも文字通りけた違いに小さいため(要は癖が強いと思ってください)、その計算を行う上での取り扱いにはファインマンも苦慮したようです。
上記の重力の講義録に掲載された書籍でも、実は途中で終わっています。それはファインマン自身が葛藤中であり、満足の行く出来ではなかったため、後半の講義を載せることを認めなかったといわれています。
この葛藤はもっともなことです。(むしろそれを講義で披露しながら進めるチャレンジのほうがすごいと思います)
この講義を行った1962年は、超ひも理論の原型にあたるひも理論(南部陽一郎が素粒子のために考案)も、ブラックホールの研究すらあまり盛んに行われていない重力研究の夜明け前でした。
ちなみに、アインシュタイン自身は一般相対性理論からのブラックホールが存在する理論は認めても、それが実際に存在することには否定的でした。
それでも、当時の講義内で触れたアイデアが、後のループ量子重力理論に貢献した面もあります。(ゴースト場という仮想ルールを導入して、ループの部分的な計算を可能にした)
この講義よりだいぶ後に、「超ひも理論」が発展していくのですが、その推移を踏まえても、この理論は最後まで好きにはなれなかったようです。
あくまで推測ですが、実験による検証が困難であることから、哲学的な議論に見えてしまったのかもしれません。
実は、伝記のなかで哲学者との議論にかみつくシーンがあって、1つ1つの言葉や表現が抽象的であることにうんざりしたようです。
むしろファインマンはより実用的な議論を好み、特に「計算」に関しては異常(失礼!)なほどの関心を寄せて、生涯にわたって瑞々しいアイデアを提示し続けます。
次回は、物理学者ファインマンの「コンピュータ科学」への貢献について触れてみたいと思います。
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