石倉康司

文学と映画、最近は俳句も。自費出版したり。朗読したり。 BOOK CAFE「にて」の一…

石倉康司

文学と映画、最近は俳句も。自費出版したり。朗読したり。 BOOK CAFE「にて」の一員。アマチュア作家の会社員。たまにベーシスト。第1回NIIKEI文学賞純文学部門佳作/本屋エッセイ賞大賞受賞 連絡→cozycorner1983@gmail.com

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    劇場、自宅問わず鑑賞した映画で心に残った作品について書きます。

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    過去や日々を綴った少し感傷的な日記です

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    創作した小説です。

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哀れなるものたち 受け継がれる母と娘の意思

 『哀れなるものたち』は、多くの人が語っているように、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を骨子にした作品だ。さらに、『フランケンシュタイン』の作者であるメアリ・シェリーやその母であるメアリ・ウルストンクラフトの人生を重ね合わせて、という複雑なレイヤーを持った構成になっていて、原作者アラスター・グレイは間違いなくメアリの母娘のことを書いているだろうし、ヨルゴス・ランティモスも、いまこの時代にこの作品、ということで意識しているように思える。  自分はフェミニズム史には

    • PERFECT DAYS 〝こんなふうに生きていく〟ことの悲哀と影

       『PERFECT DAYS』は語るのが非常に難しい映画だ。〝映画〟としての完成度や役所広司の演技については文句のつけようがないのだけれど、どうしても引っかかってしまう部分があるので、それについて記そうと思う。  まず思ったことだけど、なんか、リアルじゃないと思った。僕が言うリアルというのは、例えば、 「林檎は赤い」  という表面的なリアリズムではなく、 「林檎を食べた。ナイフを使って皮を剥いたら、蜜のたっぷり染み込んだ果実で、大きな口をあけてかじったら、瑞々しい甘さ

      • 逆流の快楽

         そういえば、もう何年も〝仕事をサボる〟ということをしていない。「そりゃあ社会人だし当たり前だろう」と思ったあなたは、サボるということの名状し難い快楽を知らないのだろう。それってちょっともったいないと思いますよ。  20代のころ、僕はアルバイトで生計を立てていて、社会にコミットする気など一ミリもなかった。バンド活動と読書で忙しかったのだ。本当は働いている時間など無いのだけど、働かないと家賃も払えないし、メシを食べることも出来ない。しょうがないから最低限生きていける程度に働こ

        • 2023年の映画ベスト10

          2023年に鑑賞した映画のベスト10です。良かったら皆さんの鑑賞のご参考に。今年も沢山映画見るぞ〜 1.宇宙探索編集部 フェイクドキュメンタリーのB級SF映画化と思ったら、全然違っていた。映画の根底には〝詩〟と〝言葉〟があり、あまりの不器用さと無垢さゆえに、「そうすることしかできない人間」の悲哀と救いが描かれていた。ラストシーン、久しぶりに滝のような涙を流したわ。 2.枯れ葉 引退宣言を取り消したカウリスマキの新作。ありがとう。 「無意味で馬鹿げた犯罪である戦争の全てに嫌

        哀れなるものたち 受け継がれる母と娘の意思

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          2023年に読んだ本ベスト10冊

          今年読んだ本で、心に深い印象を残した10冊を記します。順不同です。 ◆モレルの発明/アドルフォ・ビオイ=カサーレス ずっと読みたいと思っていたけれど、ようやく古書店で出会えた。噂(?)に違わぬ傑作。『去年マリエンバートで』を彷彿とさせ、映画にまつわるメタな構造もあり、自分のストライクゾーンど真ん中な一冊だった。 ◆寝煙草の危険/マリアーナ・エンリケス 個人的にスパニッシュホラー文芸という新たな扉を開いた一冊。マジックリアリズム的でありながら、現代社会の厭な感じが作中に通奏

          2023年に読んだ本ベスト10冊

          『朽腐』について

           この度、拙作『朽腐』がNIIKEI文学賞で佳作となりました。翻訳や作家業、文芸イベントのオーガナイズで活躍している西崎憲さんが審査員ということで応募したのですが、お選び頂き素直に嬉しく思います。大賞は該当なしとのことですが、そういった結果からもシビアに選考していることが伺えます。来年も応募しようかな。  自作について語るのもどうかと思いますが、自分の思いとして、記しておきたいことがあります。  まず、今回応募するにあたり、最初はゴリゴリに幻想文学な作品を書こうと、鼻息を

          『朽腐』について

          2023年3月4日 日記

          朝、少し早起きして、作家の温又柔さんときたしま君で出版社した『日本語に住むということ』の刊行記念イベントに行くために、妻と三鷹へ向かう。三鷹は僕が東京で一番好きな街ということと、久しぶりに友達に会えるということで、胸が高鳴るのを抑えつつ自転車を漕ぐ。頭の中で、mooolsの「街は今 友達に会いに行くときの匂いがしている」がリフレインする。 三鷹の書店UNITÉさんに着き、まずお店の素晴らしさに驚く。近所にあったら頻繁に通ってしまうよ。ますます三鷹に住みたくなる。

          2023年3月4日 日記

          2023年2月25日 日記

          しばらくの間働きすぎていて、日記を書くことすらままならず。このままだといつか頭がおかしくなると思う。まぁ、そうなったらそうなったらでいいか。INUの『気い狂て』を口ずさむ。 強い北風の音を聞きながら午前中をのんびり過ごし、妻とともに中野へ。友人のおこめさんが参加しているフリーマケットに行く。談笑しつつ物色。僕はmuffinさんが出品していたヴァシュティ・バニヤンのレコードを買い、妻はパウンドケーキやカーディガン、おこめさんのお下がりのTシャツなどを買う。 久しぶ

          2023年2月25日 日記

          日記 2023年2月11日

           ぐっすり眠る。今気づいたのだけど、「ぐっすり」は「Good Sleep」のことなのだろうか。だとすると、ぐっすり+眠るは使い方として間違っているよな、などとどうでもいいことを考える。  昼過ぎに、妻と出かける。近所の書店に行って、山尾悠子の新刊『迷宮遊覧飛行』と、『ランバーロール』の最新号を買う。池田澄子さんの句、好きだなーとしみじみ。その後、井の頭線に乗って吉祥寺へ。電車の中で岩波俳句の結果が出ていると知り、吉祥寺に着いて真っ先にBOOKSルーエに行く。岩波の月刊誌『世

          日記 2023年2月11日

          日記 2023年2月10日

           朝、起床してカーテンを開けると灰のような細かな雪が降っている。すでに隣の家の屋根には薄く雪が積もっていて、昼頃には道路にもそこそこ積もっているのでは、と思う。妻はそれでも自転車でバイトに行くと言っているので心配するが、結局バイトは休みになり、ホッとする。  夜、仕事を終えて窓の外を見ると、雪は止んでいる。打ち合わせばかりで殆ど雪景色を見れておらず、少し悲しい気持ちに。妻が作った夕食の炒め物が美味しく、夢中になって食べたら悲しい気持ちが吹っ飛ぶ。  お茶を飲みつつ今日から配

          日記 2023年2月10日

          日記 2023年2月8日

           ちょっと精神的にやられてしまって、体調を崩す。昨晩は眠れず、やっと寝付けたと思っても眠りが浅いのか、何度も目を覚ましてしまう。体調不良と睡眠不足と憂鬱で完全に心が折れ、仕事を休む。朝食を食べたのちに、ベッドに横になる。気がつくと数時間経っていて驚く。  ビートルズのアビーロードのレコードを聴きながら、妻と昼食。2曲目のsomethingが流れたときに、不意にジョージの歌声に感動して涙が出そうになる。もう何百回も聞いているはずなのに、聞き飽きてると言ってもいいかもしれないの

          日記 2023年2月8日

          日記 2023年2月4日

           すこし寝坊し、昼近くに起床する。朝食の後に家の中を掃除。一息ついたのちに、妻とともに永福町方面へ出かける。図書館に行ってみたいとのことなので、その周辺のお店にも行くことに。  永福町の駅近くにある、昨年オープンしたばかりのイタリアパンのお店に入る。落ち着いた雰囲気の洒落た店だ。チョコレートクリームと通常のクリームの入ったドーナツパン、ミートソースのようなものがたっぷりかかったパン、宝石のような、緑色と赤色のゼリーが乗った小さなクッキー、チョコレートが塗られた細長い形状のク

          日記 2023年2月4日

          日記 2023年2月2日

           仕事を終え、夕食にハヤシライスを食べる。美味。その後、友達と近くの煙草屋の前で待ち合わせて、銭湯へ。自転車に乗って友達とどこかに出かけるのなんて、いつぶりだろうか。線路沿いに走り、高井戸に向かう。  初めて訪れる美しの湯は清潔でそこそこ広く、なぜもっと早く来なかったのかと後悔。友達と、当たり障りない話をしながら、風呂に浸かるのは楽しい。寒いときは体に力が入って言葉も思考も固まってしまいそうだが、風呂で身体を温めると、思考も弛緩していくのがわかる。色々どうでもよくなって、気

          日記 2023年2月2日

          日記 2023年 2月1日

           平日はいつも朝から晩まで仕事をしていて、日記を書くネタに困ってしまう。そんな毎日から何とか脱却したく、強引に仕事を終わらせ、妻と共に吉祥寺に映画を見に行く。平日の夜に街に遊びに行くのは、久しぶりだ。前は当たり前だったのに。 『イニシェリン島の精霊』の時代設定は、アイルランドが内戦をしている1923年。島に住む男パードリック(コリン・ファレル)とコルム(ブレンダン・グリーソン)の諍いを描いているのだが、この世界のありようを巧みに象徴化させていて、小さな世界で深い人間性を描

          日記 2023年 2月1日

          日記 2023年1月29日

           昼過ぎに妻をバイトに見送り、読書。書評を一本書く。本当は読んだ本全てに自分なりの感想などを書きたいものだ。その後、少しだけ仕事をして、『百年の孤独』の続きを読む。時間がかかりすぎている。読書のペースを上げないと。読みたい本が山のようにある。  日が暮れ外に出たくなり、自転車に乗って西荻窪へ。最近よく行くシェア音楽棚tentへ。途中からバイトを終えた妻と合流。欲しいレコードが多々あるも、ハーパース・ビザールとトッド・ラングレンを購入。  僕はジャケを含めてこのアルバムが大

          日記 2023年1月29日

          日記 2023年1月28日

           昼過ぎにコインランドリーに行く。読書をしようと思ったが、黒いビニールのゴミ袋のようなダウンジャケットを着た青年が椅子を占有してゲームをしていたため、断念。自転車を走らせて、行ってみたいと思っていたお菓子屋へ。住宅街の一角にある小さなお店だが、人気があるようで売り切れ寸前だった。バタースコーンとカップケーキを買う。ゆっくりと丁寧にお菓子を袋詰めする所作を見て、このひとは自分の仕事を愛しているのだなと思う。愛情は、実は見えないようで見える。それは一連の動きにあらわれる。  夜

          日記 2023年1月28日