日記 2023年 2月1日

 平日はいつも朝から晩まで仕事をしていて、日記を書くネタに困ってしまう。そんな毎日から何とか脱却したく、強引に仕事を終わらせ、妻と共に吉祥寺に映画を見に行く。平日の夜に街に遊びに行くのは、久しぶりだ。前は当たり前だったのに。

『イニシェリン島の精霊』の時代設定は、アイルランドが内戦をしている1923年。島に住む男パードリック(コリン・ファレル)とコルム(ブレンダン・グリーソン)の諍いを描いているのだが、この世界のありようを巧みに象徴化させていて、小さな世界で深い人間性を描くことに成功している。本当に、二人の中年男がケンカをしているだけなのに、言葉のひとつひとつが示唆に富んでおり、他人事に聞こえてこないのだ。

 本土では大砲の音が響き、自由国軍と共和国軍の内戦が行われているが、イニシェリン島でも二人の男に内戦が行われている。争いというものは、些細なことから始まり、雪だるま式に大きくなると戦争に発展してしまう。戦争の病理を垣間見ている気分で、後半は見ていてやりきれない思いで胸が苦しくなる。前半部でブラックユーモアで笑わせてくれたから、そのギャップに胸が締め付けられるのだ。

 すごくシンプルな話なのに、109分間飽きさせない脚本には脱帽としか言いようがない。戦争や分断、因習、差別の話など、人間社会の深淵がこれでもかと詰め込まれた、新しい時代の傑作だ。

 帰宅後も妻と映画の話で盛り上がる。加藤楸邨の句集と『百年の孤独』を少し読む。口の中をちょっと火傷している。翌朝の食事のために吉祥寺で買ったワッフルを楽しみに、就寝。

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