華守樹 (かずき)

大学生の頃からストレス発散がてら妄想小説を書いています。

華守樹 (かずき)

大学生の頃からストレス発散がてら妄想小説を書いています。

マガジン

  • オリジナル小説  恋人櫻

    時代は明治。遊郭に売られた結希乃は、真っ赤な街で嘘にまみれていた。あるのは膨大な借金と、嘘の笑顔だけ。暗闇の底を這うような毎日に、赤い街の嘘に染まらない男が現れる。貧しくも美しいその男は、星屑のような瞳といい、たおやかな佇まいといい、まるきり星空の下に咲く桜のようだった。

  • オリジナル小説【完結】地獄サンタ

    貴様にクリスマスプレゼントをくれてやれ、と 地獄サンタクロース課から通達が出ている。 なんでも願え。叶えられない願いなんかあったら地獄サンタの名折れだぜ。 …だがな、言葉には気をつけろよ? 仮にもここは地獄なんだぜ。 考えナシもいい加減にしておけよ。先入観も思い込みも捨てろ。 そうさ、考えてもみろ。 オレは今、又とないチャンスをしょって貴様の目の前にいるんだぜ。

  • 読み切り・短編・その他

記事一覧

固定された記事

恋人櫻1 闇に落ちるは

――まるっきり、毒でありんすな。  自虐的に廓言葉で呟いた。  姿見に映っているのは、まだほんの少女だった。あまり肉のついていない華奢な体は、まだ子供と呼ぶ方が相…

恋人櫻23 一条の星明り3

 再び女楼主の部屋へとやって来た蒼紫は、ずしり重そうな袋を差し出した。長年に渡って少しづつ小銭を貯めたものと一目でわかる。 「なんだい、随分溜め込んでるじゃない…

恋人櫻22 一条の星明り2

 窓枠の下にへたりこんで嗚咽を殺していた結希乃の耳に、黄色い声が届いた。すぐにどよめきに取って代わり、それは波のように大きく広がった。 ――……なに?  顔を上げ…

恋人櫻21 一条の星明り1

 蒼紫がみどりやを訪れると、黄色い声が響くのは相変わらずだった。不格好な髪を見てやはり女たちはざわつくが、黒田と碧は、意味深ににやつくだけで一言も触れてこない。…

地獄サンタ 特別篇【2009.12.】

                          2009年12月23日                         地獄サンタクロース課            …

地獄サンタ あとがき【2009.12.02】

そもそもこのお話は、ガイコツサンタのイラストから生まれました。 ガイコツサンタのイラストを元手に最初に考えたのは、人を不幸にするサンタでした。 プレゼントをあげる…

地獄サンタ15 ・・の・・・・・【最終回】

 極楽へ昇ったときのことは、今思い出してもぞくりとするほどだ。  雲のトンネルを通り抜けると、七色の光に満ちた世界だった。あたり一面桜が満開で、霞のような雲のか…

地獄サンタ14 極寒地獄のおトヨ5

 やがてゆっくりと腕を緩めたおトヨは、それでも名残惜しそうに見慣れないオレの胸骨や頬骨を撫でた。 「あんまり撫で回すなって」  手離せなくなっちまう。  オレのあ…

地獄サンタ13 極寒地獄のおトヨ4

 おトヨから額を引き剥がした。苦しくて堪らねえ。ぜいぜいと乱れた呼吸を整える。 「おめえ……殺されたのか……?」  おトヨは一瞬で蒼ざめ、オレの腕から逃げた。  …

地獄サンタ12 極寒地獄のおトヨ3

* * *  ――オレがいる。おトヨのログの中のオレ、おトヨの目から見たオレだ。まだ生きていて、顔がある。目を吊り上げて怒り狂っている。 「くそっ! ごうつくば…

地獄サンタ11 極寒地獄のおトヨ2

 三百三丁目はごうごうと轟くほどの吹雪だった。雪と氷に閉ざされた極寒地獄だ。  上空から目を凝らす。どこだ? 「いた! アンジー、そこだ。降りろ!」 「ああ、もう…

地獄サンタ10 極寒地獄のおトヨ1

「よう、セブン」 「ロック。暫くだな。元気だったか?」  事務所の入り口から返ってきた声は、随分と呑気だ。 「元気に決まってるだろ」  地獄サンタには病も何もありゃ…

地獄サンタ9 焦熱地獄の六郎太3

「願いの前に、二三訊いてもいいか?」 「なんだ、まだ決まらないのか?」 「セブン、私が答えましょう」  苛つくドクロを、落ち着いたウマが諌めた。 「……仕方ないな」…

地獄サンタ8 焦熱地獄の六郎太2

 突然、頭から冷たい水を引っかぶり、オレは驚いた。水をかけられたこともそうだが、桶一杯ほどの水で地獄の業火が消えちまった。  着物の裾からぽたぽたと真っ赤な水が…

地獄サンタ7 焦熱地獄の六郎太1

 ごうつくばりな地主め、今泉倉蔵のヤツめ! なにもかも貴様のせいだ。  日照り続きで米の収穫は半分も落ち込んだっていうのに、いつもどおりに厳しく取り立てられたん…

恋人櫻20 男の本性8

「まあ、蒼紫! どうしたの、その髪は!」  黄色い、というよりもはや金切り声で優寿子が駆け寄ってきた。  朝から立ち寄る先々で、出会い頭にみなが髪のことを訊いてく…

恋人櫻1 闇に落ちるは

恋人櫻1 闇に落ちるは

――まるっきり、毒でありんすな。
 自虐的に廓言葉で呟いた。
 姿見に映っているのは、まだほんの少女だった。あまり肉のついていない華奢な体は、まだ子供と呼ぶ方が相応しい。透き通るような白い肌に、色素の薄い亜麻色の丸い瞳と髪。小さな顔に、派手な造りではない目鼻が愛らしいが、その表情は浮かない。
 身に纏っているものは、どう贔屓目に見ても似合っているとは言い難かった。破廉恥な緋色の襦袢に、緋縮緬の帯を

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恋人櫻23 一条の星明り3

恋人櫻23 一条の星明り3

 再び女楼主の部屋へとやって来た蒼紫は、ずしり重そうな袋を差し出した。長年に渡って少しづつ小銭を貯めたものと一目でわかる。
「なんだい、随分溜め込んでるじゃないか。黒田の口振りからして、救いようがないほど貧しいと思い込んでいたわ」
 碧は黒田に疑わしげな視線を投げかけた。
「わしも驚いとる」
「男の独り暮らしに、そう金がかかるものではありません」
「そもそも違和感があったのよね、揚げ代を払った時点

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恋人櫻22 一条の星明り2

恋人櫻22 一条の星明り2

 窓枠の下にへたりこんで嗚咽を殺していた結希乃の耳に、黄色い声が届いた。すぐにどよめきに取って代わり、それは波のように大きく広がった。
――……なに?
 顔を上げ、赤い襖の向こうに意識を向けた。
 女たちの甲高い声が響くのは、蒼紫がやって来たときだけだ。だが、彼は今し方帰っていった。かのひとではない。
 そんな考えをお構いなしに、どよめきは大階段を上り近付いてくる。一年前に黒田が結希乃の一晩を買い

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恋人櫻21 一条の星明り1

恋人櫻21 一条の星明り1

 蒼紫がみどりやを訪れると、黄色い声が響くのは相変わらずだった。不格好な髪を見てやはり女たちはざわつくが、黒田と碧は、意味深ににやつくだけで一言も触れてこない。あの夜、膳を据えたのは黒田だったのだから、切られた髪の行方など聞く必要もないのだろう。
 お茶を一杯ご馳走になり中座を告げても、碧はいつものように「蒼紫、またおいでなさいね」と蠱惑的な微笑み浮かべるだけで、引き留めもしない。蒼紫もいつものよ

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地獄サンタ 特別篇【2009.12.】

                          2009年12月23日
                        地獄サンタクロース課

              《 特別通達 》

  以下の者にクリスマスプレゼントを与えるまで、帰還するべからず。

                 記

         居住  :  この世 日本国広島県
         氏名  :  華守樹

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地獄サンタ あとがき【2009.12.02】

そもそもこのお話は、ガイコツサンタのイラストから生まれました。
ガイコツサンタのイラストを元手に最初に考えたのは、人を不幸にするサンタでした。
プレゼントをあげる相手が、ことごとく不幸になっていくブラックサンタ。

最初はプレゼントもらった人も喜ぶんだけど、段々あれ?って方向に話が進んで、
最後にはドクロサンタがニヤッとするわけ。
「さて、次のターゲットは誰だ?」って。

…あれ? 何かに似てない

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地獄サンタ15 ・・の・・・・・【最終回】

 極楽へ昇ったときのことは、今思い出してもぞくりとするほどだ。
 雲のトンネルを通り抜けると、七色の光に満ちた世界だった。あたり一面桜が満開で、霞のような雲のかかった池には睡蓮が咲き乱れていた。
 隣では、おトヨはきょろきょろとおようを探していた。
 オレにはおようがどこにいるのか分かっていた。地獄サンタの力で見たからだ。ひときわ大きな蓮の花を揺りかごがわりに眠っている。
 それらしい花はひとつし

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地獄サンタ14 極寒地獄のおトヨ5

 やがてゆっくりと腕を緩めたおトヨは、それでも名残惜しそうに見慣れないオレの胸骨や頬骨を撫でた。
「あんまり撫で回すなって」
 手離せなくなっちまう。
 オレのあばらを見ていた目が、ゆっくりと上を向く。どこを見ているかもわからねえはずのオレの眼窩を見詰め、ぽろぽろと涙をこぼすんだ。
 ……泣くんじゃねえよ。
「あたし、おようと――」
 そうだ、願え。
「――おまえさまと三人で、極楽で暮らしたい!」

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地獄サンタ13 極寒地獄のおトヨ4

 おトヨから額を引き剥がした。苦しくて堪らねえ。ぜいぜいと乱れた呼吸を整える。
「おめえ……殺されたのか……?」
 おトヨは一瞬で蒼ざめ、オレの腕から逃げた。
 事故だと思っていた。水路の脇の土に滑り落ちたような跡があったと聞いた。オレを探しに出て足を踏み外しちまったに違いねえと、それ以外には考えられなかった。なのに……くそっ! 冗談じゃねえぞ、オレの知らねえことだらけじゃねえか。
 くそっ! 今

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地獄サンタ12 極寒地獄のおトヨ3

* * *

 ――オレがいる。おトヨのログの中のオレ、おトヨの目から見たオレだ。まだ生きていて、顔がある。目を吊り上げて怒り狂っている。
「くそっ! ごうつくばりめ、オレたちを飢え死にさせるつもりか!」
 おトヨは、オレの怒声と赤ん坊の泣き声をただじっと聞いていた。
 腕に抱いたおようが泣き止まねえ。いくらあやしても駄目だ。構って欲しいんじゃねえ、腹が減ってるんだ。わかっているのに、乳が出ねえ。

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地獄サンタ11 極寒地獄のおトヨ2

 三百三丁目はごうごうと轟くほどの吹雪だった。雪と氷に閉ざされた極寒地獄だ。
 上空から目を凝らす。どこだ?
「いた! アンジー、そこだ。降りろ!」
「ああ、もう、わかったよ!」
 ソリがヤケクソ気味に急降下する間に、オレは赤い上着を脱いだ。背骨とあばら骨だけの上半身が露わになるが、オレの体は暑さも寒さも感じやしねえ。
 ソリが着陸する前に飛び降りて駆け寄る。
 おトヨは鼻先まで雪に埋まっていた。

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地獄サンタ10 極寒地獄のおトヨ1

「よう、セブン」
「ロック。暫くだな。元気だったか?」
 事務所の入り口から返ってきた声は、随分と呑気だ。
「元気に決まってるだろ」
 地獄サンタには病も何もありゃしねえ。あるとすれば、骨折か下顎をなくすかくらいのもんだ。
「それもそうだな」
「まあ、座れよ。待ってたんだぜ。この前の続き、話してくれ」
「この前?」
「去年だよ。話の途中で仕事に行っちまったろ?」
 セブンのヤツは、思い切り首を捻り

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地獄サンタ9 焦熱地獄の六郎太3

「願いの前に、二三訊いてもいいか?」
「なんだ、まだ決まらないのか?」
「セブン、私が答えましょう」
 苛つくドクロを、落ち着いたウマが諌めた。
「……仕方ないな」
 ドクロはそっぽを向いた。
 拗ねたのか? 表情も目もねえんだから、わかりにくいったらねえ。
「六郎太。どうぞ、質問を」
 もしかして、ドクロよりウマのほうが偉いのか? いや、ウマじゃねえな。温厚そうなのに、ウマと言われてえらく怒って

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地獄サンタ8 焦熱地獄の六郎太2

 突然、頭から冷たい水を引っかぶり、オレは驚いた。水をかけられたこともそうだが、桶一杯ほどの水で地獄の業火が消えちまった。
 着物の裾からぽたぽたと真っ赤な水が垂れていた。風が急激に熱を奪っていく。
 ……なんて涼しい。
 へなへなと座りこんだ。水の冷たさも風も、感じたのは随分と久しぶりのことだ。
「六郎太か?」
 声に振り返ると、この上なくおかしげな格好をした物の怪が立っていた。
 ウマの骨を連

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地獄サンタ7 焦熱地獄の六郎太1

 ごうつくばりな地主め、今泉倉蔵のヤツめ! なにもかも貴様のせいだ。
 日照り続きで米の収穫は半分も落ち込んだっていうのに、いつもどおりに厳しく取り立てられたんじゃ、たまったもんじゃねえ。朝から晩まで汗と泥にまみれて田を耕しても、腹いっぱいどころか握り飯ひとつ食えねえじゃねえか。
 おかげで娘のおようが死んじまった。生まれていくらも経たねえってのに、可哀相によ。
 挙句、女房のおトヨまで……。およ

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恋人櫻20 男の本性8

恋人櫻20 男の本性8

「まあ、蒼紫! どうしたの、その髪は!」
 黄色い、というよりもはや金切り声で優寿子が駆け寄ってきた。
 朝から立ち寄る先々で、出会い頭にみなが髪のことを訊いてくる。
 蒼紫の藍色の猫毛が後ろ首で無造作にひとつ結びにされているのはいつものことだ。だがその先で五寸ほどだろうか、一房がざくりと切り取られている。雑に刃物を入れられているのは誰の目にも明らかだった。
「どこかの女に襲われでもしたの?」
 

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