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セッション定番曲その64:What A Wonderful World(この素晴らしき世界) by Louis Armstrong

歌モノ定番曲。ノンジャンル系セッションでもジャズセッションでも。そして世界中の路上でも歌われています。どんなメッセージがこめられた歌なのでしょうか。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:What A Wonderful World

同名の曲はいくつかありますが、「世界は素晴らしい」というメッセージは共通しているものの「世界」の範囲やイメージはかなり異なります。

この曲には、ポジティブな視点で「世界」を描きながら「素晴らしい世界をみんなで築き上げていこう」と思いが籠められています。

発表は1967年、世界中で(特に米国で)東西冷戦~核軍備~ベトナム戦争、人種差別、公害~環境破壊、など先行きの見えない問題が多発していて、「世界/未来」に対する希望が持てなくなってしまっていた時代。そんな中で現実から目を背けるのではなく、ポジティブな言葉を積み重ねることで、「諦めずに世界/未来を素晴らしいものにしていこう、それが出来るのは自分達自身」というメッセージを歌ったものです。

後年、Louis Armstrongが再録版の冒頭でこれについて語っていて

Seems to me, it aint the world that's so bad but what we're doin' to it.
And all I'm saying is see what a wonderful world,It would be if only we'd give it a chance. 
Love baby, love. That's the secret, yeah. If lots more of us loved each other, we'd solve lots more problems. And then this world would be gasser.


Louis Armstrong - What A Wonderful World (Original Spoken Intro Version) 

「『世界』を悪者にしちゃダメだよ、駄目にしているのは我々じゃないか。『世界』にチャンスを与えようよ」「お互いを慈しむこと、それしかない」と。

John Lennonも「Give Peace A Chance」と歌っていましたね。

ポイント2:I see…, I hear…

「世界」を語るのに、俯瞰した視点ではなく「私が見聞きしたもの」を根拠にしてポジティブな言葉を積み重ねています。歌詞の冒頭は「I see…」の繰り返し。「問題が山積みなのはニュースを見ていれば分かる、でも自分の周りを見てごらん、良い事も沢山あるよ」と。

現実の問題から目を背けているように聞こえますが、真意はそうではなくて「下を向くのではなく、前向きに考えて、世界を未来を変えていこう」というメッセージです。

ポイント3:沢山のカバー

今でも問題は山積みで、平和と平等の時代になるのではないかと期待されていた21世紀も、実際には対立と差別が激化する一方。単純に希望が持てる状況ではありません。特に日本は人口減少と経済的優位性の低下が並行して怒起こって、じわじわと沈みつつあるという認識もあります。

この曲が、Louis Armstrong以降も多くの人に受け継がれ歌われているのは、この曲のポジティブなメッセージがまだ有効だと信じている人が多い証なのかもしれません。

ご本家


Jon Batiste、大袈裟な表現ではなく、沁みるアレンジ。


Eva Cassidy、嚙み締めるように歌っています。若くして亡くなった後に評価された歌手でした。


Stacey Kent、雨の日に太陽を想いながら聴きたいですね。


Tony Bennett、親戚のオジサンが歌っているような、上手くない歌が妙に説得力があります。


Rod Stewart、Stevie Wonderがハーモニカを吹いています。


Playing For Changeプロジェクト


ポイント4:歌詞の意味と発音のポイント

I see trees of green, red roses too
I see skies of blue and clouds of white
なぜシンプルに「green trees」や「blue skies」ではないのでしょうか?
諸説ありますが、詩的な表現であると同時に、「木々を見たら豊かな緑色だった(日本語なら「青々と茂っていた」というところ)」「空を見上げたら真っ青だった」という意識の流れを表わしているのだと説明を受けたことがあります。対象物と色彩の関係。

この後に登場する「虹」も含めて「世界はなんと色彩に溢れているのだろう!」という感じですね。「colorful」という言葉には「色が色々ある」という意外に「イキイキとしている」というニュアンスもあります。

I see them bloom for me and you
bloom」は「花が咲く」「花盛り」という意味です。ちょっと発音が難しいので練習しましょう。「loo」は思い切り口を突き出して発音します。最後の「m」は飲み込む感じ。

The bright blessed days, the dark sacred nights
この世界の光も闇も神様に与えられたもの。そう考えると昼も夜も穏やかな気持ちでいられますよね。夜が訪れない世界だと、自分と向き合う時間を作るのが難しくなってしまう。
sacred」の発音は「séikrid」で、アタマにアクセントがあります。

*私は宗教的な人間ではないので、上記の「神様」は一般的な概念です。

What a wonderful world
「w」音が3回登場します。この音をちゃんと出さないと意味が通じないので、口の動きが忙しいけど頑張りましょう。唇の先を思い切り尖らせてから発音します。

ポイント5:How do you do?

今はどうなのか分からないですが、学校の英語の授業で「初めて会う人との挨拶 はHow do you do?」と教えられましたよね。ところが実際に米国人と会うとこんな挨拶をする人はおらず、既に「死語」だと言われます。日本語でもいきなり「ご機嫌いかがですか?」とは挨拶しないですよね。
米国人と日本人では距離の詰め方が全然異なるので、「丁寧/礼儀正しい」と「よそよそしい/慇懃無礼/心を開いていない感じ」の境目が微妙ですよね。

この歌詞が書かれた1967年当時でも既に古臭い表現になっていたと思いますが、この曲ではずっとそのまま歌われています。
I see friends shaking hands, saying, "How do you do?"
They're really saying, "I love you"
必ずしも初対面の挨拶としてだけ使われる訳でもなくて、「とてもフォーマルな挨拶」というイメージ。この歌の中では「久しぶりに会った友達同士が握手をしながら、やあ元気かいと挨拶し合っている」「それはI love youと言っているんだよ」と。そのちょっと堅苦しい感じがこの曲には似合っているのかもしれません。

日本語の歌でも古い言い回しをそのまま残して現在でも歌っているケースはありますね。

ポイント7:反戦歌

米国では湾岸戦争の際も「9/11」の際も、反戦/厭戦を助長するようなポップス曲が一時的に放送禁止リストに載ったことがありました。「Imagine」とか「Blowin' in the Wind」とか。本当に表現の自由はどうなってんだと思いますね。この「What a wonderful world」は露骨に「反戦」を歌っている訳ではありませんが、1960年代末期のレコード会社からは録音を反対され、こっそり制作したものの宣伝活動を拒否されてしまい、当時の米国ではなかなかヒットしなかったようです。火が付いたのは英国からで、チャート1位になっています。当時の英国でも学生運動は盛んでした。

そんな状況から長い時間を掛けて米国内でもスタンダード化していった訳です。ポジティブなメッセージで徐々に「戦争の親玉」を追い詰めていこうという気持ちはみんな同じですね。

ポイント8:Good Morning, Vietnam

1987年、ロビン・ウィンドウズが従軍ラジオDJを演じていた映画でこの曲は使用されました。ベトナムを舞台にした反戦映画のブームが一段落した時期、露骨な反戦映画ではなくじわじわと米軍内の腐敗や士気の低下、米国人のアジア人蔑視、女性蔑視などを描いた作品です。その中の「田園風景の中の爆撃」「街中でのテロ爆発」「ベトナム内での反戦デモ弾圧」などを描いたシーンでこの曲は静かに流れます。この曲にこめられたメッセージが、皮肉をこめて使われている例ですね。


ポイント9:アレンジ

世界中で歌われている証として、様々にアレンジされたバージョンもあります。こめられているメッセージは同一。

レゲエ


サンバ(インスト)


ボサノバ

ハワイアン


バイオリンとギターのデュオ


パンクロック!


ポイント10:同名異曲

Sam Cooke、「学校で習う難しい学問は分からないけど、君への愛は本物だよ」と身近な「世界」が素晴らしくなることを歌っています。「世界」の解釈も色々あるということですね。
Sam Cooke - What A Wonderful World

上記のカバーも沢山あります。
What A Wonderful World - Music Travel Love

Skaにしちゃったもの。
Wonderful World - Live - Sam Cooke ( Ska Tribute)

■歌詞


I see trees of green, red roses too
I see them bloom for me and you
And I think to myself
What a wonderful world

I see skies of blue and clouds of white
The bright blessed days, the dark sacred nights
And I think to myself
What a wonderful world

The colors of the rainbow
So pretty in the sky
Are also on the faces
Of people going by
I see friends shaking hands, saying, "How do you do?"
They're really saying, "I love you"

I hear babies cry, I watch them grow
They'll learn much more
Than I'll ever know
And I think to myself
What a wonderful world
Yes, I think to myself
What a wonderful world


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