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【校閲ダヨリ】 vol.31 初対面。ちらっと見える洒落に粋を感じます (カタカナ語考察)



みなさまおつかれさまです。

今回は、カタカナ語のお話です。
日常生活で、見ない・聞かない日はないといっても過言ではないこの表記法、先日は、都知事のカタカナ語にまつわる発言が取り沙汰されるということもありました。
良いテーマだと思いますのでここでひとつお時間を頂戴して、カタカナ語を用いることが、聞き手(読み手)にどんな印象を与えるのか考察してみることにします。


さて、皆さまの中には

カタカナ語というよりは、外来語では?


   
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
確かに、そうといえばそうなんですが……、厳密には違いがあると私は考えています。

辞書の記述を見てみましょう。
   

外来語
他の言語から借用し、自国語と同様に使用するようになった語。借用語。日本語では、広義には漢語も含まれるが、狭義には、主として欧米諸国から入ってきた語をいう。現在では一般に片仮名で表記される。
   
カタカナ語
片仮名で表記される語。主に外来語を指すが、和製英語についてもいう。
(『デジタル大辞泉』より引用)

   
外来語でポイントとなるのは、「自国語と同様に使用するようになった語」という点だと思います。
ガラス」「ノート」「パン」「アルコール」など、老若男女誰でも知っているような単語がこれに該当しますが、対してカタカナ語はこのような外来語を含みつつ、「ゴールイン」「スキンシップ」「バックミラー」など厳密には外来語とは言えない和製英語も含み、なおかつ外来語ほどには定着しておらず、英単語などをそのままカタカナで表記しているような「トランザクション」「レピュテーション」「アセット」などなど、広範にカタカナ表記されているものを指すことになります。
   
私は今回、カナ表記の中で境界を設けたくないので、あえてカタカナ語という呼び方を用いることにしました。
   
   
では、下ごしらえが済んだところで調理にまいりましょう。
   
カタカナ語の登場に関して山田貞雄2020「ことばの疑問」では
   

明治期から段々に,新しい外来語を日本語に取り入れる際にはカタカナで書くことが増え,大正期・昭和期には漢字で新しい外来語を書くことはほとんどなくなりました。

   
としています。
私自身で推測をしてみても、カタカナ語の使用が広まったのは開国後、一気に外国文化が日本に入ってきてからではないかと思いますので山田2020と同じ立場です。
カタカナ外来語略語辞典』(自由国民社)によると、新聞・雑誌などで現在使用されている外来語はおよそ2万語、専門分野の外来語を加えると総数5万にも及ぶ外来語を使用しているとされる、ということが述べられています。(ここでいう「外来語」は私のいうカタカナ語と同義だと考えます)
割合的には、和語・漢語には及びませんが、たった100年ほどのあいだにここまで数が増えるのは驚異的なスピードなんです。
このような現状を「日本語の汚染」と見る方もいらっしゃいますが、私はあくまで傍観者です。
カタカナ語使用がいかに一般的か実感していただきたいためのご紹介程度に、この論はここでとどめておくことにしましょう。
   
ここまでで、カタカナ語の特徴を1つ考えることができます。
   

・海外由来の言葉であり、「洗練されている」といった印象や「最先端の言葉」といった印象を受け手に与える

   
ということが推察できます。(最後にもう一度まとめますので、読み流していただいて問題ありません)
   
   
さて、では次に、「文字」という観点からカタカナ語に迫っていきたいと思います。
   
日本語の文字には「ひらがな」「カタカナ」「漢字」と、3種類あるのはご存じの通りです。
この3つは、2つのグループに分けることができます。
   

ひらがな・カタカナ → 表音文字
漢字 → 表意文字

   
ですね。表音文字は「」を表すのに対し、表意文字は「意味」を表します。
カタカナ語では当然カタカナを使用しますので、全体として「音」しか表していないことになるんです。
先日の都知事の会見であった「オーバーシュート」を例として取り上げますと、この単語の意味を知らない者にとってはただの「音」の集合体としてしか捉えることができませんが、「爆発的患者急増」と表意文字である漢字を用いることで、初耳・初見の人でもそのまとまりからある程度意味を推測することができるんです。
   
これが、カタカナ語の特徴の2つ目です。
   

・見た目や音からは意味がわかりづらい

   
これは派生して、こういった特徴に繋がります。
   

・知的な印象を与える
・隠語のように、仲間内だけで通じる暗号のようなものとしても機能する

   
   
最後に、「スピード感」について考察をします。
   
これは、受け手というよりは伝え手のほうにメリットがあるものと思います。
その言葉の意味するものを誰かと共有したいと思ったとき、たとえばそれが英語由来だったとしたら、英単語をそのまま伝えたほうがもたつかずに済む、というものです。(お互いが共通のコミュニティに属していれば、なおさらこの特徴が大事になると考えます)
   
ギターで、内部空間が真ん中で仕切られていて他は空洞になっている構造を「セミホロウボディ」というのですが、これは、概念を説明するよりカタカナ語を用いたほうが伝え手はラクなはずです(と、普段弾いている私は勝手に思っています)し、仲間内で話すのであれば、いちいち説明したり「半中空構造」なんて言うほうがややこしくなる気がします。
   

・速度重視のコミュニケーションがとれる(共同体・同一組織向け)

   
   
   
ここまで、駆け足でしたがカタカナ語の特徴について考察してきました。
まとめると
   
   

・海外由来の言葉であり、「洗練されているといった印象」や「最先端の言葉」といった印象を受け手に与える
・見た目や音からは意味がわかりづらい
・知的な印象を与える
・隠語のように、仲間内だけで通じる暗号のようなものとしても機能する
・速度重視のコミュニケーションがとれる(共同体・同一組織向け)

   
といったものがカタカナ語の特徴として考えうると、個人的には思います。
   
用いるか用いないかは使用者の判断ですが、カタカナ語はパッと誌面を見渡しただけでも存在が明確にわかりますので「目立つ言葉」ということはいえると思います。
派手な生地を表に使うか、裏に使うか、表も裏も地味な生地にしてネクタイだけ派手にするか、ベルトと靴でハズすか……迷うところではありますが、私は、カタカナ語使用もこれと似たような印象を受けます。
   
あくまで場面に応じて、受け取り手のことをよく考えて、タイミングを見計らって使用するのが効果的なのではないかと私は思います。
   
   
それでは、また次回。
   
   

参考
デジタル大辞泉』(小学館)
「外来語」と「カタカナ語」の違いは?」(『日本語、どうでしょう?』神永曉)
山田貞雄2020「ことばの疑問」(『ことば研究館』)
カタカナ外来語略語辞典』(自由国民社)



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