【校閲ダヨリ】 vol.60 補助動詞を閉じるか開くか(前編 —体言・用言—)
みなさまおつかれさまです。
私の少年時代は「夕立」といって30分くらいで収まる激しめの雷雨があり、風流な季節イベントのひとつでしたが、
近年は乱暴としか言いようのない豪雨が各地を襲っています。
被災地のみなさまのご心情をお察しするとともに、お亡くなりになられた方々へ心から哀悼の意を表します。
一日も早い復旧を願ってやみません。
ここで少し、「夕立」について解説をしておきましょう。
言わずもがな、夏の季語である「夕立」ですが、古くは『万葉集』に
と記載があり、約1300年前からすでにその事象が確認されていました。
清水浜臣筆『万葉集』(国立国会図書館デジタルコレクション)
語源説は意外にたくさんあり、5つを確認しています。(『日本国語大辞典』より引用)
さて、本題に入ります。
今回のテーマはタイトルにもあります「補助動詞」です。
補助動詞って何?
簡潔にいうと「動詞を補助的に用いる用法」なのですが、具体的な例を示したほうがわかりやすいかと思います。
この述語部分「行ってくる」の「くる」が補助動詞と呼ばれるものです。
ふむふむ。「行って(行く)」も動詞、「来る」も動詞だよね。
そうです。動詞などの「連用形」に付属して使われる動詞、というところですね。
「形式動詞」や「機能動詞」と呼んだりもします。
また、補助動詞以外に少し別の要素が加わります(イコールではない)が、ほとんど同義で「形式用言」という呼び方もあります。
ああ、文法用語アレルギーが出てきた……。
「用言」という言葉は聞いたことがあるけれど、生きていく上で、知らなくても構わないよね。
確かに、否定はできませんね。けれど、知っているとふとしたところで役に立つので、この機会に学んでいきましょう。
覚えることはほんの少しです。
単語は大きく「自立語」と「付属語」に分けられます。
それだけで意味が通じる語=自立語、それだけでは意味が通じない語=付属語という解釈でOKです。
付属語は助詞と助動詞だけなので、感覚的にも判別しやすいですが、自立語は、さらに細かく分類されます。
自立語のなかで「活用がある」ものを用言、「活用がない」ものの一部が体言です。
これこれ。まったく関連性がわからなくて覚えづらい。
一見するとそうですね。
体言がまず覚えやすいので、そこからまいりましょう。
体言=名詞です。
これは「名は体を表す」と覚えることができます。
「自立語で活用がない」ものは体言(名詞)に加え、副詞(連用修飾語)、接続詞、感動詞、連体詞(連体修飾語)がありますが、これらは容易に導き出すことができますので、ひとまず置いておいて構いません。
次に、用言ですが、これは「動詞・形容詞・形容動詞」をひとまとめにした呼び方です。
なぜ「体」と「用」で表しているの?
これには、実は仏教が関係しているのです。
仏教用語では「物の本体・実体」を「体」と、「物の作用・機能・属性」を「用(ゆう)」と呼んでいます。これをそのまま言葉の世界に持ち込んだかたちです。
体と用がわかると、「連体」「連用」の意味もわかります。
活用形で「未然/連用/終止/連体/仮定(已然)/命令」と導くときのそれですね。
連用は「用言が連(つら)なる」、連体は「体言が連なる」かたちです。
つまり、連用・連体の意味がわかっていると、その後につながる単語の品詞が何となくわかってしまうんです。
また、よくある「この単語の活用形を答えよ」という問題にも応用が可能です。
下に続いている単語が名詞であれば「連体形」以外あり得ないですし、用言であれば「連用形」以外あり得ません。
連体詞(連体修飾語)、副詞(連用修飾語)も同じ感じで導き出せるの?
はい。おっしゃる通りです。
連体修飾語(連体詞)は「体言を修飾している語」、連用修飾語(副詞)は「用言を修飾している語」ですので、その単語の品詞がわからなくても導き出すことが可能です。
どちらの文も、消去法である程度候補をしぼっておくことがポイントです。
1 ですが、「必ず」は自立語・活用なし(下ごしらえ)。名詞(体言)でもないですね。
接続詞や感動詞は見た目でわかるものが多いのでこれも違う。残りは連体詞か副詞です。
そこで、「必ず」が何を修飾しているのか調べます。
「合格する」ですね。
(厳密には「合格 + する」ですが、詳しく分けすぎてしまうとわかりづらくなるので文節くらいのカット率で構いません)
合格する=動詞(用言)で、「必ず」は用言を修飾している。すなわち連用修飾語=「副詞」です。
2 でも、途中まで 1 と同じ消去法で進み、何を修飾しているかのところまでたどり着いたとします。
この文では「困難」を修飾していますね。
困難=名詞(体言)なので、「あらゆる」は連体修飾語=連体詞です。
このように、文法の品詞にまつわる問題は、「導き方を覚える」のが得策です。
体言や用言は、教科書では( )書きで示されることが多いため、「別に知らなくてもよい言葉」ととらえられがちですが、実は大変便利な言葉なのです。
では、本論に戻りますが、ここまでお付き合いいただいたみなさまは「形式用言」の意味するところがおわかりかと思います。
そう、用言なので、動詞以外も対象になるのです。
先で例示した文「もう少し考えてほしい」の「ほしい」はいわゆる「補助動詞的」な使い方ですが、
「形容詞」なので「形式用言」のほうがしっくりくるという感じになるわけです。
ここまで、いかがでしたでしょうか。
だいぶ文字数を費やしてしまいましたので、続きはまた次回ということにいたしましょう。
それでは、また。
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