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koala
2017年8月31日 22:48
大学進学で上京し十年、一度も帰らなかった故郷へ私は戻って来た。降り立った駅は、記憶の中のものより新しい。改装したのかもしれない。 もう来年で三十。東京で一人暮らしを続けるのは疲れてしまった。 「美咲は東京でOLさんやっとったんかね、えーね。学歴もあるしエリートさんじゃが」 駅でばったり会ってしまった同級生の由里はそう言ったが、実際は暮らしていくのがやっとの状態だった。大学院を出
2017年9月6日 15:33
「今日飲みに行こ」残業しながら打ったラインはすぐ既読になった。「了解、あと30分」簡潔な高木らしい答えに、にんまりが止まらない。「フロアまで迎えに来てよ」調子に乗って続けたラインは、既読スルーされた。いつもだ。「仕事が終わったら、私の部署まで迎えに来て」っていう頼みだけは、絶対に叶えてくれない。***ま、飲みに行けるだけ御の字でしょ。私は急いでエクセルを保存して、簡単に日報を入
2017年4月3日 13:04
前話→1桜子の場合 2皐月の場合 3聖花の場合春田は今日も何の感慨もなく職場の扉を開ける。ここへ来てどれくらい経つだろう。華やかな本社から、地味なこのオフィス…オフィスとも言い難いこの課へやって来てから。春田は元々、出世街道を歩んできた。若くして推進課の花形エースとして活躍し順調に出世、部下も持った。しかし、その部下の裏切りでその華々しい街道は絶たれた。辞令の紙に無機質に書かれた異
2017年4月3日 12:58
前話→1桜子の場合 2皐月の場合「おーくーれーるーー!」聖花は叫びながらどたどたと洗面台と寝室を往復していた。まだ髪も巻けていない。「何で起こしてくれないの?」母を責めると、「あなたOLになったんでしょ?大人の女性は自己管理ができないと」と涼しい顔。ホント困る。「もう髪はいいや、いってきまーす」走りながら家を出た。髪までは手が回らなかつたが、化粧は社会人の
2017年3月31日 16:35
前話→アラサーOLの演じ方1~桜子の場合~皐月は今日もきゅっと紺色のリボンを胸元に付けると、ロッカーについた小さな鏡を覗き込んだ。うん、立派な事務員だ、こういうの憧れていた。制服があって、誰かの役にたてる仕事。自分の仕事があるってなんて楽しいんだろう。給湯室へ向かうと、先輩の桜子さんがもう来ていた。新人なのだから一番に来なくては、と思うがいつも桜子さんには先を越されてしまう。「
2017年3月30日 16:30
桜子は今日も柴犬の葉子に餌をやってから出社する。「よしよし葉子。いい子にお留守番しててね」ハッハッと短く息をしながらきらりとした目で葉子は玄関まで見送りしてくれる。桜子と葉子の二人暮らし。こうして毎朝送ってくれる存在がいるというのはありがたく嬉しいことなのだと、この暮らしをはじめてから、知ったことだ。二人の大好きな散歩コースでもある川辺を歩いて駅へと向かい、電車に十分ほど乗ると会社