アラサーOLの演じ方3~聖花の場合~

前話→1桜子の場合 

   2皐月の場合


「おーくーれーるーー!」

聖花は叫びながらどたどたと洗面台と寝室を往復していた。まだ髪も巻けていない。

「何で起こしてくれないの?」

母を責めると、

「あなたOLになったんでしょ?大人の女性は自己管理ができないと」

と涼しい顔。ホント困る。

「もう髪はいいや、いってきまーす」

走りながら家を出た。髪までは手が回らなかつたが、化粧は社会人のマナーと言うから毎朝ちゃんとしてる。口紅やチークを気分で違う色にするのは結構楽しくてこってしまう。

「今度は爪も可愛くしよう」

聖花はなんとか間に合ったいつもの電車で、つり革につかまりながらそう思った。

会社近くの駅について、ジュースでも買おうとコンビニによった。

聖花のコンビニお決まりコースは、まず化粧品コーナーを物色することだ。

「あ、これ可愛いー」

新色のグロスを発見し、手にとる。

「あ、これもー」

髪ゴムも可愛いものを発見、コンビニにこんなセンスいいやつあるなんて。

買っちゃえ。何しろ大人だから、お金ならたくさんある。OLは何て楽しいんだろ。

手に持ったまま、次は雑誌コーナーへ行く。今週の占い、ファッションページ、夢中になって読み進める。

「新しいブレスレット欲しいなぁ」そう思い手首を見ると、腕時計が指している時間は、始業五分前だった。

「やばい!」

いつも通りの電車に乗れたので、油断していた。大急ぎでお会計をすますと、会社までダッシュした。

「あ、課長がもう来てるー」

走りながら見えてきた室内では、課長と後輩の桜子ちゃんが話していた。そのまま自分の机まで走り込む。

「きゃー遅刻!?セーフ!!」

席に着いたとき、時計はちょうど九時を指したところだった。よかったぁ、なんとか間に合った。暑くてあつくて、ファイルであおぐ、あー気持ちいい。

一番後輩の皐月ちゃんも隣にやってきてあおぎはじめた。この部屋やっぱり暑いよね?

皐月ちゃんはびっくりなことに、ファイルであおぐのははじめてみたいだ。聖花は先輩として、両手でやるともっと風が起きることを教えてあげた。

「今日は美味しいお菓子がありますよ」

桜子ちゃんたら、ほくほく顔で喜んでいる。

「えー超嬉しい!聖花はチョコ味のがいいなー」

お目当てどおり、チョコ味のクッキーがあったのでそれをもらった。

桜子ちゃんはプレーン味をはぐはぐと食べ、皐月ちゃんは抹茶味を上品にかじっている。

聖花は二口で食べてしまい、あまっていたストロベリー味ももらった。チョコの次に好きな味が残っていてラッキー。

OLって最高だと思う、会社でお菓子も食べられるなんてね。

「じゃあねー桜子ちゃん、皐月ちゃん。課長もさよおなら」

やっと退社時間になり、挨拶して家へと帰る。今日のご飯は何かなぁ。

「ただいまー。はー肩凝った」

聖花がぐるぐる腕を回しながらリビングへ行くと、お母さんは笑った

「何言ってるのよ、子どものくせに」

「もーお母さん。私、体は大人なんだよ。今はアラサーの体なの!」

「はいはい、じゃあ早く子どもの体に戻りなさい」

「はーい」

自分の部屋に入り、ランドセルをよいしょと背負う。この体では腕を通すのも一苦労だ。

自分だけが知っている呪文の言葉をつぶやいて、ぴょ-んぴょーんと二回跳ねると、聖花の体は縮んで小さくなった。元の小学生の体に。

「会社はどう?聖花にはまだ、学校へ行っていた方が楽しいんじゃない?」

ランドセルを下ろしてリビングに戻ると、お母さんが聞いてきた。お母さんとは何度も話し合ってきた内容だ。

「ううん、学校へはもう行きたくない。その願いが叶って、あのランドセルの呪文が手に入ったんだから。私は大人になって、会社に行く方が楽しいの」

「聖花が楽しいなら、それでいいわ。でも大人としてふさわしい行動をしてね」

いつも同じ言葉をお母さんは言う。

聖花はお母さんの言いつけを守って、会社で事務職の一番先輩として立派に勤めている、と自信を持っていた。それに桜子ちゃんも皐月ちゃんも、ドラマやネットに出てくるアラサー女子とはなんだか違って、面白くて優しい。みんなで楽しくやっているもんね。

明日は二人をケーキ屋さんに誘ってみよう。

計画を立てながら、聖花は子どもの姿に戻って、母の手作りハンバーグを美味しくほおばった。


次話→課長の場合



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