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マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガー『黒水仙』全てのジャンルを含んだ天才的映画

超絶大傑作。超絶可愛いジーン・シモンズに一億点、確実に眼力で人が殺せそうなキャスリーン・バイロンのギラついた目と笑ったら逆三角になる口に一億点、ロケーションとカラー撮影に一億点で三億点みたいな映画。衝撃的に面白くない作品群で有名なパウエル=プレスバーガー作品なんで観る前はどうも気乗りしなかったのだが、バイロンが発狂するらしいと聞いて駆けつけてきた次第である。個人的には全人類に『老兵は死なず』とか『うずまき』を観てもらって、その酷さを語り合いたいんだが、そんなことするくらいなら『七月の雨』とか『私はモスクワを歩く』とかを観たほうがいい。

さて、そんな感じでハードルとかいうもんは概念になったんだが、そのお陰もあってかホームランが出てしまった。まず、ジャック・カーディフの撮影とカラー映画黎明期の目が醒めるような鮮烈で美しい色彩は素晴らしかった。基本的には修道服の"白"と崖の下の自然の"緑"そして空の"青"くらいしか色がないんだが、それこそが美しいし、そこにシモンズやバイロンが"赤"という色を持ってくるというのがまた良い。情熱の色であり、色欲に冷めているはずの修道女にはその要素が一つもないが、男のことばっかり見ているシモンズは鮮やかな色の服を着ているし、色気を帯びたバイロンも"赤"を加える作業を見せつける。だからこそ、ラストで色を失って黒々としているバイロンと修道服のカーの対比が映像的にもうまくいっているのだ。

常に風が吹いているという設定も本筋を邪魔しない程度に通底していて、身を刺すような寒い風が修道女たちの心の鎧を全部破壊する様を丁寧に描いているのも最高。

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そして、何故かインド人役をやっているシモンズ(上)が可愛いの権化みたいで最高じゃないか。すぐに退場するのはご愛嬌だけども。加えて、途中から眼力で人が殺せそうになるバイロンもやっぱり最高。そんな彼女が死んだ目で真っ赤な口紅を塗り、それに対抗するかのようにデボラ・カーが静かに聖書を開くのを壁に書かれた仏教系の絵画が見つめるシーンの迫力が異常。なんの映画だっけ?と何回か思った。実際、バイロンが着たドレスはファムファタールにしか見えないし、ぶっ倒れてからヌッと起き上がるとこは往年の怪奇映画を思わせるし、ラストのカーとバイロンの対決はホラー映画を思わせる。特にラストのバイロンは色々と映画見た中でも指折りで怖かった。全ジャンルを横断した天才的映画じゃないか!(↓この眼力を見よ!)

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物語としては、山の上という寒い&ど田舎に"修道院作ってー"と言われたので、若い修道女に"これは試練です"みたいなこと言ってちゃんとした修道女とパックで確実に問題を起こしそうな修道女を押し付ける話である。押し付けられた院長も"祈れば大丈夫"とか"カンチ(シモンズのこと)と若将軍だと身分が違いすぎるから恋愛には発展しない"とか"子供たちが金貰って修道院に来てるのは論外"とか勘違い発言を連発していて、さすが宗教者って感じ。あまりにアウェイすぎて逆に俗世のこと思い出しまくるのも笑える。食物用畑を文字通りお花畑にした食べ物担当シスターもいいキャラしてる。周りが華やかになるらしい陽気なシスターと力持ちらしいシスターの出番があんまりなかったけど、正直ラストの対決だけあれば大丈夫って感じ。

若将軍が加藤諒にしか見えないのもご愛嬌。女子修道院に男が物理習いに来るのには爆笑した。キリスト教で物理とか教えられんの?教義的に。

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・作品データ

原題:Black Narcissus
上映時間:101分
監督:Michael Powell, Emeric Pressburger
公開:1947年5月26日(イギリス)

・評価:100点

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