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【長編小説】熊の飼い方

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新社会人になり、不安と期待を寄せる青年。 一方で平凡な毎日に飽き飽きした青年。 そんな二人の青年の苦悩と不安を描いた小説。 ※フィクションです。登場人物や団体は架空のものです。
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#連載長編小説

熊の飼い方 13

熊の飼い方 13

光 7

 上司からの所謂パワハラは日に日に悪化してきた。いる意味ある?なんで社会人なったん?社会不適合者やん?など日々罵倒を浴びせられた。考えすぎて、家で嘔吐した。しかし、食らいついた。本当の社会不適合者にならないために。逃げて実家になど帰れない。働きもしないやつなんて大人じゃない、といわれるに決まっている。逃げ場なんてどこにもない。
 気が付くとまた、フットサルをしに来ていた。最近行く頻度は減

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熊の飼い方 12

熊の飼い方 12

影 7

 昨日はあまり寝れなかったが、今日も変わりなくいつものように作業着に着替える。日差しがあまりない。雨の日と曇りの日はいつも気分が下がる。そんな落ち込んだ気分で作業場に向かう。
「にっしーさんおはようっす」
「ごっさんおはよう」
 僕は「にっしー」と、大男は「ごっさん」とお互いのことを呼ぶようになっていた。毎日作業で会うぐらいだが、何かしらお互い拠り所となっていたかもしれない。しかし、互い

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熊の飼い方 11

熊の飼い方 11

光 6

 この事務所に配属され、二か月が経とうとしている。しかし、仕事が上手く行かなくなってきたため、焦りが出てきた。資料を作るのにも人よりも時間がかかる。それと共にミスも増えてきた。
「田嶋」部長に呼ばれた。
「はい」
 部長はいつもとは明らかに違う雰囲気を醸しだしていた。部長は、四十代半ばぐらいのスラッとした男性で、いつも髪の毛を額が出るように整髪料でセットしていた。いかにも仕事ができて、い

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熊の飼い方 10

熊の飼い方 10

影 5

 鉛筆を置き、天上を見上げる。赤かった世界がいつの間にか闇の世界に変わっていた。ただ人工的な光があたりに溢れているだけだった。ここには何もない。僕の心と同じようだ。この建物は抜け殻だ。そして僕も。人間とは何なのだろう。動物とどこが違うのだろう。食べて、排泄して、寝る。違うことと言えば、働くことと話すことぐらいだ。この働くことと、話すことは自分にとっては作業になっているため、僕は人間という

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