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熊の飼い方 10

影 5

 鉛筆を置き、天上を見上げる。赤かった世界がいつの間にか闇の世界に変わっていた。ただ人工的な光があたりに溢れているだけだった。ここには何もない。僕の心と同じようだ。この建物は抜け殻だ。そして僕も。人間とは何なのだろう。動物とどこが違うのだろう。食べて、排泄して、寝る。違うことと言えば、働くことと話すことぐらいだ。この働くことと、話すことは自分にとっては作業になっているため、僕は人間というよりも動物なのだ。本来、人間も動物であるから、悩む必要もないのではないか。人間はなぜ、本能のままに生きれないのだろうか。なぜ、動物からはみ出すことをするのだろうか。甚だ疑問だ。憲法、法律、会社、学校……。このようなものに拘束されて生きているといえるのだろうか。いや、生きているという実感がなく、ただ毎日を過ごしているのではないか。自分もその人間の一人なので批判する必要もないのだが。
 考えているうちに目が冴えるようになってきた。明日も仕事をしなくてはならないのに。早く寝て明日に備えたい。また、人間みたいなことを考えていた。
 何年も人と会話することが無かった。することとしては、仕事の内容のような事務的な会話だけだった。僕が一方的に会話を終わらせることで、相手はそれ以上詮索してくることもなく、この人は会話したがらないのだな、と思われることでそれ以上の発展にはならなかった。それか、僕を排除するために暴力を振るうかだった。しかし、最近話しかけてくる大男はいつもの人たちは違う。僕がどれだけ距離を縮めようとしてくる。
なんの思惑があるのだろう。
 そんなことを考え出してしまう自分にも嫌気がさしていた。人と極力近寄ることをかけながら生きてきたことに対しても。
 あの大男は何か変えてくれるかもしれないと淡い期待さえしてしまった。
 そんな考えがぐるぐると頭の中も何周も周り、僕を睡眠から妨げた。気づけばもう午前四時だった。

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