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熊の飼い方 13

光 7

 上司からの所謂パワハラは日に日に悪化してきた。いる意味ある?なんで社会人なったん?社会不適合者やん?など日々罵倒を浴びせられた。考えすぎて、家で嘔吐した。しかし、食らいついた。本当の社会不適合者にならないために。逃げて実家になど帰れない。働きもしないやつなんて大人じゃない、といわれるに決まっている。逃げ場なんてどこにもない。
 気が付くとまた、フットサルをしに来ていた。最近行く頻度は減ってきた。しかし、行けるときは行くようにしていた。汗を流し、一日が終了した。と、帰ろうとしていると、後ろから優しい声が降り注いだ。
「どうしたん?」島崎が不思議そうに聞いてくる。
「え?」
「いやなんか顔色悪いなおもて。それに久しぶりやし」
「いや、特に何もないです」
 赤の他人を心配させるほど落ち込んではいない。しかし、心の奥底は反対している。誰かに頼りたい、すがりたい、そんなことを思っていることに気付いた。
「仕事でなんかあったん?」少し間を置いて島崎が聞いてきた。
「実は……」
 すがりたい気持ちに負けた。僕は最近の上司のパワハラについて、自分の思っていることについて話した。島崎は相槌を打ち、時に眉間に皺を寄せるなどして真剣に聞いてくれた。言葉が滑るように口からこぼれた。不思議に気持ちだった。こんなにも不満が自分の中に溜まっていることに驚愕した。だが、驚くのは島崎に対してだ。こんなにも、自分が情けないということを暴露しているのに、僕を否定しない。なぜだ?急に不安に襲われ、言葉を止めた。止めるとともに島崎がゆっくりと話し出した。自分も仕事を始めた時に失敗したこと、人間関係が上手くいかなかったこと、仕事に行くのが嫌になりしんどくなったこと。成功の話よりも失敗の数が多かった。このような世に言うカリスマでさえ悩むことがあるのだ。共感が生まれた。自然と目頭が熱くなった。
「よかったら俺が開いてるセミナー来てや」
「そんなことやられてるんですか?」僕は少し驚きながら言った。
 セミナーとは、意識高い人物がやるものとしか考えていなかった。しかし、このような人でも自己を啓発している、と思うとイメージが変わった。しかし、やはり自己啓発に対する嫌悪感は拭えない。どうするべきか。僕の答えを聞く前に島崎は連絡先を聞いてきた。こうなれば、渡すほかはない。これにより自分の世界がこんなにも大きくも小さく変わることになるとは、このときには知る由もなかった。

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