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手鏡日録

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日記です。気まぐれに書いています。
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2024年5月の記事一覧

手鏡日録:2024年5月28日

手鏡日録:2024年5月28日

ひどい風雨だった。
今も轟々と風が暴れている。身の危険を感じる帰路だったが、なんとか帰り着いた。
激しくフロントガラスにぶつかる雨粒は、ひっきりなしに働かせたワイパーが何とかしてくれた。ただアスファルトに叩きつける雨は地面を波のように這ってこちらに迫り、あるかなしかの感覚で繰り返しタイヤを呑み込んでいく。ライトに照らされる雨は不器用なタップダンスのようで、雨脚、ということばが浮かぶ。
車道上には街

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手鏡日録:2024年5月22日

手鏡日録:2024年5月22日

いつぶりか分からないくらい久しぶりに、とある牛丼屋に入った。少し前におエラい役員が自社の商品と女性と地方をワンフレーズで貶めるミラクルコンボをキメた、あの牛丼屋チェーンである。かの舌禍よりずっと以前から足は遠のいていて、でも時々食べたくなるのは、自宅ではなかなかあの牛丼の味が出せないせいもあると思う。あるいは思い出補正というやつか。
入った店はずいぶん綺麗で明るい内装で、お馴染みのカウンターのほか

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手鏡日録:2024年5月20日

手鏡日録:2024年5月20日

副都心線の雑司が谷駅から階段を上がり、地上の光が見えたとたん、ひんやりとした空気に包まれた。リュックの中の上着を取り出そうかと逡巡するうちに、路上の気温はあたたかさを取り戻した。今の冷気はなんだったのだろうか。ともあれ、まずは鬼子母神から雑司が谷散歩を始めることにする。
都電の踏切を渡り、欅の聳え立つ参道に足を踏み入れると、ひゅっと涼しい空気がぶつかる。さっきの冷気とは違う。周りの市街化に抗うよう

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手鏡日録:2024年5月12日

手鏡日録:2024年5月12日

家族写真を撮った。
かつて一家だった人たちは三つの家族になり、その最大公約数みたいな場所、横浜に集合した。写真室はデパートの片隅で、フロアの喧騒を離れたそこは月日で隔てられた元家族が集まるのにふさわしい静けさだったが、被写体である子どもたちがそのうらぶれた静謐を濁らせてしまったのは少し申し訳なかった。もっとも今日の撮影の主役は、子どもたちのおじいちゃんである、我が父なのだけれど。
カメラマンが哀れ

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手鏡日録:2024年5月11日

手鏡日録:2024年5月11日

土曜日は子どものスイミングスクールがあるので、気温が上がった昼前に出かける。
晴れて暑く、風が強い。太陽フレアに起因する磁気嵐が発生しているらしいが、それとこの強風とは関係ないだろう。風にはまだ湿気がうっすらとしか含まれていないので、なんとか呼吸ができている。
コロナ禍での中断期間はあったものの、再開したスイミングスクールで子どもたちはバタフライにまでたどり着くことができた。クロールも平泳ぎもはじ

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手鏡日録:2024年4月26日

手鏡日録:2024年4月26日

この四月、慣れない仕事であまりに楽しく、しかしやはり疲れてしまっていて、文章を書くどころではなかった。文章ばかりか俳句もずいぶん苦労したので、相当余裕がなかったのだと思う。

疲れた頭で風呂に入っていたら、『山賊の歌』が浮かんできた。
昔、小学校の音楽で配られた小さな歌集に載っていたのだが、授業で歌った記憶はない。いや歌集で知るより先に、父親が風呂場で歌っていたので知ったのだった。
父親は、およそ

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